只今実験中 十日ぶりの帰宅。 おかえりと、ただいまの言葉を交わして。美味しい手作りのご飯を一緒に食べて。土産を渡して。 でもまだあげてないものがある。 それは意図的にそうしているのであって、決して渡し忘れているのではない。 セシルは貰っていない事に気付いてる。でもセシルは自分から最初に強請ったりはしない。恥ずかしいから。 だからまずおれが先に切っ掛けを作る。それを一度断り、おれがもう一押しして、漸く自分も欲しいと(ただし初めは遠回しに、仕方ないと折れた風を装って)受け取る。 じゃあもし、一押しを与えなかったら? 実験の答えを、おれは知りたい。 * 「なぁセシル、ぎゅーってしていい?」 「……やだ」 断られた。ここまではいつも通り。 実験はここから。 「そっか……、じゃあいいや」 「――え」 おれがあっさり引くと、そんな声が漏れた。微かに落胆の色を載せた声。 「ん、なに?」 「あ……いや……」 セシルは思わず出してしまった声に、しまった! という風な表情を浮かべる。 おれの反応が余程予想外だったと見える。 「なぁ、今、なんか言おうとしたよな?」 「……」 セシルは口を噤んで視線を逸らす。 取り繕おうとも、本音混じりの言葉は既に零してしまったし、おれも掬ってしまった。 掬い上げられたものを目の前に晒されながら、それが何か理解された上での詰問。なんて意地の悪い行為。 「セーシル?」 「……」 セシルはそれが何なのかを言わない。 でも、言わないだけで理解はしている。何せ言った本人だ。 その証に、頬が段々と色付いていく。 口にするのは憚られる事。自分から強請るには気恥ずかしい事。 「おーい」 「何……でも、ない」 「うそ。だってさっき明らかにがっかりした声出しただろ」 「あれは……」 答えに窮して俯くセシル。口を尖らせて、口の端を噛んで、出ない言葉の代わりに、羞恥だけが顔に色濃く出て。 真っ赤な顔してるセシルも可愛いなぁ、なんて眺めていると自分の本音もついつい口元に現れてしまう。 にやにや。くすくす。 「……バッツ」 失笑を恨めしそうに睨みつける涙目。 ああ、もう。 「ごめん。なぁセシル、ぎゅーってしていいよな?」 「……」 短い沈黙の後、銀の髪が僅かに縦に揺れたので、おれは宣言通りセシルをぎゅーっと抱き締めた。 触れた頬は見た目通り熱くて、それがまた愛おしかった。 * 実験結果。 セシルが折れる前に、自分が折れる。 実験は空腹時を避け、自身に余裕がある時に行うべし。 ---------- ついったの診断結果を元に。 http://shindanmaker.com/181846 |
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