彼女に何が起こったか・1


 角松洋介がある朝目を覚ますと、自分の隣に女が眠っていることに気が付いた。
 なんだ、夢か。
 角松は瞬時にそう判断し、もう一度目を閉じた。が、次の瞬間に今度こそはっきりと覚醒する。がばっと起き上がり、女と距離をとった。狭いベッドの中なのでほんのわずかだが、気持ち的に。

「だ……っ!」

 誰だ!?と叫びかけ、角松は咄嗟に自分の手で口を覆った。幸いというかなんというか、女が目を覚ます気配はない。ほっとして、そろりと女の寝顔を覗き込んだ。
 知らない女だ。安堵と焦りを覚えつつ観察を続ける。「みらい」の士官用寝室であることは改めて確認するまでもわかっていた。いくらなんでも「みらい」に女をお持ち帰りするほど角松も馬鹿ではないし、そんなことを許す「みらい」でもない。
 だが、逆に関係者であるならば副長である自分も知っていなければならない。何が起こっているのかわからないまま、角松は女に手を伸ばした。
 髪が極端に短いが、それがよく似合っている。美人だな、と素直に思った。心のおもむくまま毛布を剥ぐ。角松は目を瞠った。女は角松のTシャツを着ただけの、あられもない姿で眠っていたのである。寝ているうちに乱れたのだろうシャツは腹までめくれあがり、やわらかそうな腹や無防備な下半身が角松の目の前に露わになった。

「………」

 尾栗ではないが口笛が出そうになった。女は肌寒くなったのかむずがるように眉をよせ、心持ち体を丸める。そろそろ起きるのだろう。角松は久しぶりの性的な高揚感にこらえきれない笑みを浮かべた。何が何だかさっぱりわからないが、目の前にこんなうまそうなものがあるのに我慢できるほど彼は聖人君子ではない。
 すでに半分肌蹴られているTシャツを、えいやっとばかりに引っ張り一気に肘まで剥き出しにした。ブラジャーさえ着けていない透明感のある乳房が晒される。女がさすがに目を覚ました。角松はかまわなかった。

「…えっ?」

 女の上に乗り、まだ状況がよくわかっていない頬に軽くキスをする。おはよう、と言ってまったく無遠慮に、柔らかな胸を揉んだ。

「ちょっと、え?なんで!?」

 嘘だろ。パニックに陥った彼女がなんとかもがこうとするが、いかんせん重たい体が乗っかっている。焦りに戸惑った顔が、角松を見て泣き出しそうに歪んだ。

「なんでっていうのはこっちのセリフなんだが、そういうつもりで来たんじゃないのか?」

 角松に連れ込んだ記憶がなく、「みらい」に異常な気配もない。ということはつまり公認でここにいるのだろう。角松はこの状況をそう判断した。草加のハニートラップかもしれないという危惧もあるが、あの男がそういう姑息な手段を講じるとは考えにくい。女は息を弾ませながら信じられないといわんばかりに角松を凝視した。言葉が出てこないらしく、くちびるを戦慄かせている。
 あれ?角松はその顔になにか引っかかりを覚えたが、考えるよりも久しぶりの感触に暴走する体がそれどころではなかった。片手で女の頬を掴み、涙で潤んだ黒い瞳を覗き込むと、噛みつくようにキスをしていた。びくっと女が緊張して体を固くする。舌と舌を擦りあわせ、胸を掴んだままだった手の指が、その頂きに触れた。

「……っ!」

 ようやくTシャツを腕から抜いた女が、角松の頭を掴んで引き寄せた。やっとその気になったのかと角松はキスを止め、引き寄せられるまま女に顔を近づけた。

「ふざけんなっ!!」

 と、怒声とともに額に激痛が走った。咄嗟に身を引く。すぐさま女はベッドから飛び下り、自分も痛かったのだろう額を抑えつつビシッと角松を指さした。

「何でお前がここにいて、俺がここにいるんだよ!?」

 ほとんどひっくり返った声で角松にもわからないことを叫ぶ。角松が「?」となっていることにさらに苛立ちが増したのか、全裸であることも構わずに女は続けた。

「俺はっ、俺がっ、角松洋介だ――っ!!」

 誰かに似てると思ったら、親父だ。色気もへったくれもなく絶叫した女は、次に「へぶしょいっ」と豪快な、くしゃみをかました。
角松(男)登場。とりあえず揉んでおく男です。



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