☆★☆  行き着いた先は・・・? < 士郎くん in 第五次聖杯戦争 後編 その2 > ☆★☆



ぶっちゃけ、言峰は【聖杯】を完成させて【この世の全ての悪】が産み落とされるのを待っている気がするんだよね。
俺の世界でも、【この世の全ての悪】に満ちた【大聖杯】の側で、俺たちの事を待ち構えていた位だし。
うん、俺の記憶に間違いないな。
だとしたら、やはり言峰は敵側だと思って間違いないだろう。
臓硯に至っては、言わずもがな。
むしろ、あちら側も俺の事を敵と認識しているだろうし、こちらも絶対に倒すべき相手だと認識しているからさ。
問題は、あちら側に残してきた形になった慎二だが、魔術回路がまともにない状態だし、多分ライダーを失った時点で臓硯にすら相手にされないだろう。

いや……もしかしたら、あの腐れ外道神父が余計な真似をして、ギルガメッシュにサーヴァントの真似事をさせて騙した挙げ句、退屈しのぎの玩具にしかねないんだが…まぁ、今の段階ではどうするか決めらんないかな。

間桐邸内から放逐されていれば、回収して保護する事も難しくはないし、必要なら魔術回路の治療が可能か調べるが、軽い軟禁状態にされてしまっているなら、勝手に助けに出向く訳にはいかないだろう。
何の予備知識も持たないまま、敵対する魔術師の工房に飛び込むのは、みすみす命を捨てに行くのと同等の行為だからだ。
それでなくても、数百年を生きる妖怪爺が敵として控えているのに、仕掛けられた罠や使い魔のグロテスクな虫が待ち構えているような場所へ、単独行動で特攻したなんて言ってら、どんな結果が待っているかなんて簡単に想像出来ちゃうのが、ある意味悲しいかも。

いや、うん。
今回の桜とは違って、今まで嫌がらせと卑怯な真似、そして同じ学校の生徒を平気な顔で犠牲にしようとした慎二を助ける為に、わざわざ危険な賭けに出るなんて告げても、簡単に承諾を得られないだろう。
俺だって、それくらいは解ってるさ。

それこそ、この件に関して無理を押し通そうとしたら、今度こそこの場にいる面々に絞め殺されるわ!

やー、うん。
そりゃ、俺は色々とやりたい放題してるけど、それでもちゃんと周囲が受け入れられる許容範囲内ギリギリで収めていたつもりだ。
まぁ……今回召喚された英霊全員を、偶然が重なった結果としても俺の味方側に集めたのは、少々やり過ぎだったかもしれないが。
でもさ。
たった一人、敵側になるライダーの事を考えたら、この方が余程いい結果を生む気がするんだよな。
アサシンも、臓硯に盗られてないし。


こちらに来る前、きちんとした契約を正式にアサシンが牛若と交わす際に、俺が監修の元で色々と細工をしたから、臓硯が隙を突いてきても奪われる心配は無いだろう。
元々、アサシンの存在が不安定だったからこそ、本来アサシンのクラスで召喚される【ハサン】に上書きされてしまった訳だし。
更に言えば、この家に仕掛けられている結界強化は、昨日のうちに俺や遊人で施術しただけじゃなく、キャスターもここに着くなり神殿構築に近い細工を施していたから、外部からの魔術干渉はほぼ難しいだろうな。
幾ら臓硯でも、神代の魔女の扱う結界魔術を、そうそう簡単に破る事は出来ない。
俺の世界で、柳洞寺が臓硯に攻め落とされたのは、良くも悪くもあの寺には攻め入る事が可能な突破口が、明確に存在していたからだ。
元々、臓硯は虫を使い魔にしている為に、ある程度開けた出入り口がある結界が相手なら、偵察の手駒や侵入経路の確保に事欠かないみたいだし。

ホント、小さな虫だと魔力も少なくて、それこそ日常の中に紛れてしまうから、見落とし易いんだよね。

だからこそ、キャスターは臓硯の虫の侵入を防げずに、逃げ出すしかなかった訳だし。
もちろん、この家の結界にはきちんと対策が済ませてある。
と言うか、市販の虫除けの防虫剤の器に、臓硯の虫すらあっさり撃退する威力がある、遊人特性の殺虫剤兼防虫剤を突っ込んで、唯一の出入り口である門の、見え難い位置に設置しているんだよね。
空から来る虫には、屋敷を包む塀と共に張り巡らされた結界で対応してるし、この屋敷の住人と許可を得ている魔術師及び使い魔が出入りする場合、けたたましい程の警報が鳴り響くから、魔術に関わる者なら誰にでも直ぐに判るんだ。
うん、そう。
魔術師以外には聞こえない、だけど半端じゃないほどうるさく鳴り響く警報。
これは、臓硯の虫にすら反応するレベルに引き上げてある。
むしろ、巨大な虫を引き入れて為に必要な侵入経路を確保する事が目的だろう、超小型な使い魔が出入りする住人に紛れて侵入しても、それを感知する為の仕掛けだし。
そこまでするのかと、昨日の段階で士郎に呆れられたのだが、俺からしたらこれでもまだ足りないと思うくらいだ。

だって、相手はあの臓硯だし。

いや、うん。
警戒しすぎだと、言われてしまうかもしれないけれど、今の俺の側には誰よりも信頼できる半身も、戦場の経験豊富でこの手の対策に慣れている尊敬する養父も居ないのだ。
自分や身内を守る為にも、少しでも必要だと感じた事は、全てやるべきなのだろう。
もちろん、遠坂やイリヤたち魔術師やアーチャーたち英霊たちを侮っている訳でもなければ、彼らを信用していない訳じゃない。
だが、魔術師の大半がまだ十代で経験不足、英霊たちは生前とは違って【聖杯戦争】で召喚された際のクラス補正が入るため、本来の力を全て発揮する事が出来ないというハンデがある。
しかも、マスターとの繋がりは令呪に依るものだから、それを奪われて命じられたら、抗えないと言う縛りすらあって。
それらは、十二分に付け入る隙になり得るのだ。

特に、令呪を造ったのは臓硯だから、桜とライダーの時みたいな裏技が、まだ幾つもあるかもしれないし。

そうやって考えたら、警戒はしてもしたりないと思う。
ギルガメッシュが動くなら、これだけ強固なものだと言える結界だって、紙屑の如く破壊されかねないんだし。
あー、うん。
ホント、色々と考えるだけでも面倒だよな。

もちろん、口に出しては言わないけどさ。

そんな風に、頭の端でつらつら考える事、約三秒。
俺の言葉に驚いている面々から、まだ反論の言葉は出ない。


「それに、俺はある意味この現状は意外に好都合じやないかって、そう考えている。
少なくとも、【第五次聖杯戦争】に集う全騎が、ここに揃った事で潰し合う心配は無くなったからな。
戦う事を望んで、今回の召喚を受けたランサーにすれば、それじゃ面白くないとか思うかもしれないけど、戦闘する機会が全く無くなった訳じゃないしね。
その辺りも含めて、きちんと話をしたいんだけど、聞く気はある?」

一旦言葉を切ると、俺は全員の顔を見渡した。
俺の言葉に対する反応を、正確に見極めて置きたいからだ。
なにせ、予定外の事態が引き起こされたのは、この場にいる全員であって俺一人じゃない。
中には、この状況に疑心暗鬼になりかねない奴だっていてもおかしくは無い状況で。

だから、ある程度まできちんと話そうと思ったんだ。

彼らだって、俺ばかりが幾つもの情報を握っている事に、苛立っているだろう。
桜の一件を取っても、【もう少し相談してくれたら】という思いが先に立っているとは、想像出来ない訳じゃないんだ。
ただ、臓硯の使い魔が虫一般だと言う事を考えると、きちんとした結界内でなければ情報漏洩が怖くて、簡単に話せなかっただけである。
全員が、こちらの聞く意志を示したのを確認し、俺はキャスターに視線を向けた。

「キャスター…悪いんだけど、結界のレベルを上げてくれないかな?
今から俺が話す内容は、出来ればこの場に居る面々以外には、絶対に聞かれる訳にはいかないんだ。
桜の事もあるから、臓硯が使い魔を出している可能性はかなり高いと思う。
臓硯に取って、桜は自分の目的を果たすための大切な駒だからな。
こんな形で奪い取られて、黙っているとは思えないんだよ。
だから、臓硯の横槍に邪魔されない為にも、結界を強化して中に虫が侵入出来ないように、また既に結界内にいる虫は、念の為に排除しておく必要があるからさ。
頼むよ、キャスター。」

出来るだけ、キャスターが好むような仕草で、俺は甘えるように頼む。
この辺りの匙加減は、色々と難しい処もあるのだけど、俺の場合はアーチャーによる指導で、【様々な相手への上手な対応の仕方】をマスターしているから、失敗はないだろう。

まぁ…失敗しても、キャスターのおもちゃとして着せ替え人形にされる時間が延長するだけだろうから、そんなに問題はないんだけどな。

キャスターも、状況はちゃんと心得ているから、今、この場で暴走する事はないだろう。
彼女だって、どうせ趣味全開で遊ぶのならば、後顧の憂いを可能な限り排除しておいた方が、楽しめるからだ。
むしろ、今回キャスターを籠絡した手段を遠坂たちが知れば、そのまま悪乗りして乱入した挙げ句、一緒に遊ばれれそうな気がするのは、俺の気のせいじゃ無いんだろうな。

正直に言えば、あまり楽しい未来じゃないが、この状況を開き直って楽しめる程度には、打たれ強くなったつもりだから大丈夫だろう。
もっとも、この世界に喚ばれたアーチャーや、俺の世界に居るだろうアーチャーからすれば、俺があっさりロリショタ衣装を受け入れる様は、見ているだけでも十二分に悪夢なんだろうな。

【何が悲しくて、英霊になる前の自分が着せ替え人形で遊ばれる姿など、見たいと思うものか。】とか、言い出しそうだし。

そこまで判っていながら、敢えてキャスターに今回の事を提案したのは、前回のような無茶を余りしたくないからだ。
幾ら、俺が【魔法使い】の端くれだと言っても、それはあくまでも俺の世界での話であって、この世界での俺の基盤は薄く弱い。
同じ起源から派生しながら、根底部分が違う同一人物が居るのも、多分大きな問題なんだと思うが、一番の問題は本来この世界に在らざるべき存在だと言う事だろうか。
今は、まだ良い。
【聖杯戦争】と言う、ある程度の揺らぎまでは許容可能な特殊な儀式の最中という事もあって、世界から弾かれる心配はないだろう。

でなければ、英霊などと言う現世には有り得ない存在が、七騎も召喚された挙げ句、殺し合うなどという真似など出来ないだろうからな。
だが、あくまでもこの状況を長期間維持するのは、多分難しいだろう。
そもそも、世界がいつまでもこの状況を許容するとも思えないし。
むしろ、そう考えた方が現状について納得がいくのだ。
だからこそ、この世界に落ちる直前に、俺が知らないうちに若返るなんて事態が、こうして引き起こされたのだろう。

この世界で、俺の同一人物に当たる【衛宮士郎】と同じ空間に存在しても、俺の存在が弾かれる事がないように。






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