無条件で預けられる背中




「うう…っ。寒ーーい!!」
「冬だからなぁ」
「雪山だからよっ!!」

なんでこんな山奥の村に滞在しなきゃならないのよ……、とリナ。
麓はこんなに吹雪いてはいなかった。
今日はずっと晴天だという専門家の言葉を信じた自分たちが馬鹿だったという事か。
山の中腹辺りで猛吹雪に見舞われた。

「ふっふっふ……あのおっちゃん、次あったらギタギタにしてやるわ」

辺り一帯の雪が溶けそうな闘志を燃やして、リナは怪しい笑いを漏らす。

「ほら、リナ。火ついたぞ」

視界が悪い中なんとか見つけた山中の村。
宿屋に備え付けられた暖炉には、今し方生まれたばかりの小さな火がともっている。

「ありがとー、ガウリイ」

物騒な闘志を一旦収め、くるまっていた毛布ごと暖炉の前に移動する。
毛布も冷えきってはいたが、何もないよりマシだ。

「本当に凄い雪だな」
「山の天気は変わりやすいっていうけど、ここまでくるとさっきまでの晴天が詐欺よね」

来訪者があまりいないのか、村にあった唯一の宿は小屋に近い質素なものだった。
雪が吹き荒れる度に部屋全体が小刻みに揺れるが、屋根のある場所で暖をとれるだけマシだという事だろうか。

「今日中に越えれると思ったんだけどなぁ」
「そうじゃなきゃ、わざわざ雪山越えようなんて思わないわよ」

急ぐ旅ではない。
それでも何となくの目的地はあり、この山を越えるのは日程の大幅短縮にもなるのだ。

「ほらリナ。もうちょっとこっち来ないと暖まらないぞ」

更に火を大きくすべく薪をくべつづけるガウリイに促され、リナは暖炉に近づく。
至近距離に見える横顔。
普段あまり意識しないせいか、暖炉の火の効果か。
睫毛までが黄金色に見える。

「どうした?」
「な…っ何でもないわよ」
「そうか」
「なにしてんのよ、馬鹿っ!!」

火が大きくなったのを確認して、ガウリイはリナの毛布に潜り込む。
ごく自然な行動に、リナの思考は追い付かない。

「何って…俺も寒いんだぞ?」
「近づくなーって、冷たいっ!!」

わざととしか思えない程の距離に、照れと寒さが一度に襲いかかってくる。

「ひっつくなぁ!!」
「何も裸で暖め合おうってわけじゃないんだから…」
「は……っ!!!!」

暖まってくると襲われる、独特の身体の弛緩のせいで身体が思うように動かない。
そんなリナを見てガウリイが喉を鳴らして笑う。

「冗談だよ」
「当ったり前よ」

それには特に何も返さず、二人の間には沈黙が流れる。
薪のはぜる音だけが室内に満ちた。

「明日雪やんだらいいな」
「ん」

外は未だ猛吹雪。
どこまでも広がる白い世界。
ふ…と腕に重みを感じた。

「……リナ?」

見れば規則正しく寝息をたてて揺れている。

「寝ちまったか」

満たされる暖かさに気が緩んだのか、起きる気配は一向にない。
ガウリイはリナを起こさないよう、ずれた毛布を再び肩にかける。

「疲れてたんだなぁ」

久しぶりの宿なのだから。
起こさないようにゆっくりとリナの体を持ち上げてベッドへと運ぶ。

「さて・と」

寝てる間に火が絶えてしまっては大変だ。
もう1つのベッドから毛布を持ち出して、暖炉の前に座る。

「ゆっくり休めよ」

背中越しにリナに声をかける。
明日、雪が止む少し前に起こせばいいだろう。
そう思いながら、ガウリイは長い夜を抜けるべく火に向き直った。




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