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 『 風船の行方 act.1 』

 図体だけでかい、子ども。
 一つ上のある先輩を見ると最近思うことだ。
 見た目は同じ中学生に見えないくせに、中身が伴っていない。普段は冷静なデータマンで通してるのが笑える。データデータ言ってて何でも知りたがって実際知識量も半端じゃないのに、なんでか自分のことには無頓着で突発的な出来事に弱い。
 こんなことはまだ序の口だが、今はそれどころじゃない。
 最近先輩は、よりにもよって、恋愛にハマっている。
 そして、俺はそれのある意味被害者だった。

「今度は一体何やらかしたんスか。とうとうストーカーでもして訴えられそう、なんてことはないでしょうね?」
 屋上に呼び出された俺はげんなりして言った。
「…海堂、最近冷たいんじゃない?」
「これだけ頻繁に呼び出しされりゃあ、うんざりもしますよ。こうして来てやってるだけ感謝してほしいくらいっス」
「だってさ。こんなこと同学年の奴ら…特に不二と菊丸には頼めないよ。慰めて…、なんて」
「それを平気で年下の俺に言うのは、なんか変じゃないっスか?」
 先輩の威厳も何処へやら。
 俺が近づいて行くと先輩は俯いていた顔を少しだけ上げた。構ってほしいときのサインだ。
「……それで?また今度はどうして落ち込んでるんスか」
 隣に腰を下ろしながら問いかけると、先輩は俺の手を軽く握ってきた。
 甘ったれめ。
「手塚のクラスに行くと必ず声を掛けてきた女子がいたんだ。バスケ部で、顔は中の上くらいの。割と気さくな人だったから短い会話でも盛り上がれたよ。楽しかった」
「………」
 俺はこの時点で話のすべてが見えていた。
「ぜったい俺に気があると思ったんだ。だから、さっき思い切って告白した」
「…惚れてたんスか」
「分からない。だけど、一緒にいて楽だった」
「……で?」
「…フられた。笑い飛ばされたよ。釣りたかったのは手塚のことで、まさか乾が釣れるなんて、って」
 そうだろうな。普通に考えれば。
 部長のクラスに行ったときにしか声が掛からないってことは、どう考えたって部長狙いだ。気さくな奴なら尚更。他の場所での交流がないことに疑問をもてばこんな赤っ恥かかなくて済んだものを。
 なんだって、この人は。
 盛大なため息を吐いた俺の手を、更に握りしめてくる。
「毎回毎回、よくも学習しないっスね。ちっと考えりゃ分かったことでしょうに。はぁ…」
「う……」
 がっくりと頷垂れた先輩の手から逃れて、その手でチョップしてやると、先輩は唸って頭を抱え込んだ。
 その姿になんだか笑えたから、呼びつけたことは許してやることにして。
 俺はフェンスに体を預けて空を見上げた。
 斑に霞んだ雲が風に流されているのを眺めていると、隣でしょぼくれている先輩が雲に重なった。
「………」
 雲が先輩で、風は感情。
 ふわふわと一時の感情に流されて行動を起こす先輩は、しがみつける岸がないのかもしれない。
 せめて同じ流されやすいものでも、風船だったら。
 紐が誰かの手か、最悪電線に引っかかって漂わずに済むのにな。
 とか考えていると。
「…何、してるんスか」
「海堂の肩に頭預けてる。海堂こそ何考えてたんだ?」
「…あんたが風船だったら、ちっとはマシだったんじゃねぇかと」
「え?」
 何バカ正直に言ってんだか。ああ、ほら。先輩も不審がってる。
「気にしなくていいっスよ」
「そう言われてもなぁ…」
「…肩貸さねぇぞ」
「気にしません」
 まるでガキ。しかも葉末なんかよりずっと年下の。
 だからこんな甘え方も許せるんだ。
 きっと、それ以外の理由なんてない。
 俺はそう自分に言い聞かせながら、先輩にヘッドロックをかましてやった。


 ◇act.2へつづく◇




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