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お礼のミニ小説です

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CANDY



「上田さん、ここにあった飴玉、食べましたね?」
 突然ギッと睨みつけられて、上田は思わず身じろいだ。
「な、何をいきなり言い出すんだ」
「食べましたね?」
 執拗に。その様子に、上田はいたく後悔をする。そう、先ほど確かに、小さなちゃぶ台の上に転がっていた飴玉を自らの口の中に放り込んだのだ。
「た…」
 水色の、セロファンに包まれた丸い飴玉。最近は駄菓子屋ぐらいでしか目にしないなぁなどと思いながら、何も考えずに口にしたそれはとても甘くて。
「食べてない、ぞ」
「上田、嘘はいつかばれるぞ?」
 その言葉に、ついぎくりとする。
「つ…」
「う、え、だ!」
「いいじゃないか、飴玉の一つや二つ!」
「白状したな!この…ドロボウ!」
 答えた途端、奈緒子がバンッ!とちゃぶ台を叩いて怒鳴りつけてきた。こんな怒り方をするのは珍しい…
「な、何をそんなに怒ってんだ?たかが飴玉じゃないか…」
「たかが飴玉で悪かったですね!」
 ピシャリ、と言ってのける。正直言って、妙に怖い。
「お、おい…YOU、す、すまん…」
 あまりの剣幕に恐れをなしたのか、上田はポツリと呟いた。
「謝ったって許しませんよ!折角無理を言って貰ってきたのに…」
 怒鳴りながら、不意にその瞳が濡れる。
「ゆ、YOU?!」
 ぽたり。あふれ出した雫が、ちゃぶ台を濡らした。
「う、上田さんの馬鹿!」
「な、泣くな、な?えっと、ほら、今買ってくるから」
 突然の雨に戸惑い、上田はあたふたとジェスチャーをしてみせる。
「か、買う?」
「そうだ、飴だろ?買ってくるから、な?泣くなよ、頼むから…」
 おもむろに、奈緒子は涙を拭って再び上田を、ギッと睨みつけた。
「上田さんの、馬鹿!」
 同じ言葉を、はく。
「こ、今度は怒るのかよ…忙しいやつだな」
「上田さんはすぐそれですよねっ、そうやって、お金とかで解決しようとする」
 ぐすっ、ぐすっとしゃくりあげながら。
「な…?」
「私がどうして怒ってるかとか、泣いてるかとか、考えたりしないんですよね!」
 何を怒っているの、どうして泣いているのか。そう言われて上田は初めて、それを気に留めた。
 ─── …そういえば、どうして怒るんだ?たかが飴玉一つ。それに、急に泣き出して。
「…なんで、怒った?」
 恐る恐る、口にする。馬鹿みたいな問い。
「上田さんが、勝手に食べたから」
 ひっく。しゃくりあげながら答える奈緒子。
「じゃあ、何で…」
 ぺたり、ちゃぶ台の前に座り込んだ奈緒子を、そっと上目遣いに見遣りながら続ける。
「泣くんだ?」
 まだ濡れている瞳を服の袖で拭った後、奈緒子は静かに微笑んで見せた。

 遠い昔、父がまだ亡くなる前に、よく買ってくれた。母には内緒で、こっそりと。それと、同じ飴だった…
「YOU?」
 バイト先に来たお客さんが、小さな子供をあやす為にポケットから出した飴。無理を言って、一つ貰った。
「もう、いいです」
 部屋に帰ったら、食べようと思って。
「そういう訳にもいかないだろ」
「いいんです、もう」
 奈緒子はポツリと、繰り返し呟いた。
「聞いてくれたから、許します」

「おい、YOU…」
「飴は買ってこなくていいから、焼肉奢ってください」
 上田はわけもわからず、不満げに車のキーに手を伸ばした。





TRICK ウエヤマ CANDY




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