「本当にやるのかい、アイシャ?」 士官学校の制服を身に纏った黒髪と灰褐色の瞳をもった青年は、困惑の色を浮かべながら目の前に立つ蒼い軍服に包まれた小柄な背中と、その足元とを見遣った。 その足元・・・つまり、彼らが佇む広い部屋の床には、巨大な練成陣が描かれていた。 「もう、ヒューイってば、仕方ないじゃない。こうでもしないと、アレはもう手に入らない訳だし。」 アイシャと呼ばれた、蒼い軍服を身に纏った金髪と翠を溶かした様な碧眼をもつ小柄な少女は、そう青年に向って告げると小さく肩を竦めてみせた。 「・・・わかった。オレも協力するけど『影写』が来るまでは、待ってもいいだろ?」 「ヒューイ・・・流石に私だって、一人でこんな大それた実験をするつもりはないわよ?」 ヒューイ、と自らが呼んだ青年に向って彼女はそう言うと、練成陣の中へと足を踏み入り、その陣の中央へと歩を進めた。そして中央に辿り着くと、腰のベルトに挿していた一本のナイフを抜き出し、それを部屋の中央に描かれた円の中へとそっと置いた。 ただ置いただけだった・・・が、その次の瞬間、予想外の事態が起きた。 そう、ナイフと共に練成陣が妖しい光を放ったのだ。 「なっ!なんでっ!?」 「アイシャ!?」 彼は驚愕の声を挙げながら、慌ててナイフから身を引く様にして立ち上がった少女に向って咄嗟に手を伸ばしながら、練成陣へと踏み込んでいった。 「だ、だめよ、ヒューイ!? ――― 退いて!!」 彼女は自分を呼ぶ青年の声を耳にすると、そう叫びながらも、その脚力を生かし練成陣から抜け出すべく、思い切り背後に向って飛び退こうとした ――― が、それが叶う事はなかった。 そう、確かに浮遊感はあった。しかし、それは彼女の予想とはまるで違う種類のモノだった。 落ちていく・・・何処までも・・・ (ああっ・・・誰でもいい・・・私を・・・受け止め・・・) 何処までもつづく闇の中へと落ちていきながら、やがて彼女の思考はそこで途切れた。 そして、錬成光が消えた後の広い部屋の何処にも、二人の姿はなかった。 『西方の魔女』パラレルVer.~未来からの来訪者~ 「・・・うわっ!!!???」 いつまでも続くかと思われた浮遊感の後、ドスン、と云った大きな音と共に、彼は背中から床へとモロに落ちた。 その衝撃はあまりにも突然すぎて、受け身すらとる事が出来なかった彼の身体を激痛が走る。そして、それは背中から全身へと広がった。 「っう~、痛って~!・・・っと、ア・・・」 彼はその痛みに涙混じりの声を上げながら、それでも目の前で消えた少女の安否を確かめようと、直ぐに身体を横に向け、右腕をついてどうにか起き上がろうとした。しかし ――― 「何者だ、貴様!! ――― しかも、何故急に宙から降って来た!?」 バチン、と云う音と一緒に何処か聞き慣れた声がして、彼の目の前で・・・『焔』があがった。 「 ――― え~っと。質問はその・・・出来れば一度に一つずつでお願いします・・・『焔の錬金術師』さん?」 彼は目の前の見知った ――― しかしある意味、彼にとっては見慣れぬ姿をした ――― 相手に向って、パチパチと困惑した様子で瞬きを繰り返し・・・やがてため息混じりにそう答えた。 ええと・・・つづきます・・・(汗)例の「こども」達のお話です。 需要・・・あるのか? 拍手、ありがとうございました♪ |
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