浅い眠りから覚めたようだった。けれども不快感はなく、むしろ心地よい脱力感があった。 時計が鳴ったのではなく、誰かが耳元でささやいたわけでもなくきっと自然に目が覚めたのだ。 窓の外は明るくないが、きっともうすぐ朝日が出るのだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、腕の中にいるやわらかな肢体を抱きしめる。 これは彼の癖だった。その人はまるで自分の一部のようにいつもピッタリと身体を合わせるから、頭で考える暇もなくそのぬくもりを全身で感じる。 しっかり者の女王は、けれどこの時間だけは年相応のあどけない少女だ。こういうとき、彼はほんの少しの年の差を感じる。 そしてどんな女王も愛おしく、かわいいなと感じてしまうのだ。 「アーシェ」 囁いてみても、よほど疲れていたのだろう、彼女が起きる気配はない。 最近ダルマスカの外交は何かと忙しいと聞いている。彼女はそんなことを一言も口にしないが。 そしてその代わりに、何もいわずに微笑んで見せるのだ。それはそれは綺麗な表情で。 知っててそうするのかは知る由もないが、その笑みはバルフレアを複雑にさせる。 怒るより微笑むほうがいいが、微笑むより甘えてくれたほうがどちらかというと彼は安心する。 こちらから聞くのも悪くはないが、意地っ張りな女王はきっと何もいわないのだろう。 やれやれ、困った女王様だな、とバルフレアは穏やかなため息をつく。 そしてもう一度彼女を抱き締めなおそうとしたとき、もぞもぞとそのやわらかな肢体は動いた。 「・・・バルフレア・・・?」 「おはよう、女王様。もうお目覚めですか?」 「・・・もう少し、このままでいさせて」 彼女はぎゅっと彼にしがみつく。そして30秒もしないうちにまた小さな寝息をたてる。 ・・・知っててやってるのか。不意をつく彼女の行動に、少しだけ年上の余裕などなくなってしまう。 「かわいいな」 けれど困った女王様だ。 バルフレアは一人苦笑し、もう一度彼女を優しく抱きしめた。 拍手ありがとうございます! |
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