「志瑯様、どうなさいましたか?」
 碧い空をじっと眺めていた志瑯は声の主、陸丞を一瞥するとまた空に目を移した。
 陸丞は志瑯の隣に立つと、同じように空を見上げる。雲一つ無い空は美しくもあり、少し物足りなさを感じた。
 どこまで空が続いているのか考えると果てしない。
「志瑯様が空を眺めるなんて珍しいですね」
 そう言うと、志瑯はまた陸丞を一瞥し目を戻した。
 志瑯は滅多に部屋から出ない。部屋の中で書物を読んだり何もせずにただ座ったりすることが多いのだ。
「何となく、だ」
 静かに言うと、空から目を外し部屋に戻ろうとした。
「あ、待ってください」
 もう少し、と志瑯を引き止めると、志瑯は陸丞の隣に戻った。
 最近の志瑯は皆から見て何かが変わった。感情が表れない表情と無口さは変わらないが、何かが違う。
 それは湖阿が救世主として来てからだ。
 それが何かを知るために陸丞は横目で志瑯を見た。が、分からない。
「あ、志瑯に陸丞」
 明るい声が聞こえた方を見ると湖阿が立っていた。
「何してるの?」
「空を見てたんですよ」
 湖阿はへーと言うと志瑯の隣に立ち、同じように空を見上げた。
「今日は雲一つ無い空!」
「今日は?」
 湖阿は頷くと志瑯を見た。
「この前は虹があったのよ、ね?」
 志瑯はああ、と頷いた。
 そういう事か。陸丞は微笑むと納得した。
 前の志瑯と違うのは内に秘めていた悲しみが薄れた事だろう。
 湖阿は救世主としてだけでなく、志瑯自身も救ったのかもしれない。
 陸丞は話している二人から静かに離れた。
「今日の空も綺麗ね」
「……そうだな」
 陸丞が振り返ると、志瑯の横顔が微かに綻んでいるように見えたーー。



-END-





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