ここだけの物語(仮題)シリーズ









 (1)





 空は、相変わらず青い。



 



 彼女は大の甘いもの好きである。どのぐらい好きかと言うと、三食全てケーキでも構わない

 というぐらいに。ケーキに限らず、甘い紅茶、クッキー、その他諸々のお菓子や果物も大好

 きでティータイムには必ず数々の芸術のようなお菓子が彼女の前に並んだ。

 特に彼女――リリーディアが大好物としているのが旬の果物を使って作ったケーキである。

 王宮で働く料理人は皆優れた腕を持つ職人な為、当然彼らの作るお菓子は他と比べて絶

 品だ。その中でも、季節を代表する果物で作られたケーキは口の中で蕩ける感覚が何とも

 言えないほど美味しい。旬の果物特有の甘みや酸っぱさを絶妙に引き出し、尚且つ見た目

 そのものが溜息をついてしまいたくなるほど美しいのだ。さすが、プロが作るだけはある。

 今日も今日とて、リリーディアの前にはどれから食べようかと悩むほど色彩豊かなケーキ

 が沢山並べられ、彼女に食されるのを待っているような状態であった。

 



 そんな、幸せな瞬間である筈の中で。先ほどまでの笑顔が嘘のように、彼女はピクリを眉

 を寄せるとテーブルの上に並べられたケーキを一望しながら呟いた。



 「…………ない」



 リリーディアの突然の豹変に、自分達が何か失態をしたのではないかと冷や汗をかきな

 がら状況を見守っていた侍女たちは、その一言にピクリと反応をする。

 そして、恐る恐ると貴い身分に辺る自らの主に伺った。



 「ひっ姫様…?何か、不都合がございましたか…?」



 自らに問いかけてきた侍女に、リリーディアは不機嫌な表情を隠そうともせずに答える。



 「ないの」

 「ない…?何か、足りないものがございましたか?」



 侍女のその一言に、彼女は不機嫌のボルテージを引き上げ、ばんっとテーブルに手を叩

 きながら立ち上がる。その反動でテーブルの隅に置かれていた紅茶が傾き、カップは中

 身を零しながら床に叩きつけられるようにして割れてしまった。

 その様子の、周りにいた時侍女たちはヒッっと小さな悲鳴を上げる。辺りは、先ほどの和

 やかな雰囲気が嘘のように緊迫としたものと変わった。



 「リジュナのケーキは?今が旬の果物と言ったらあれでしょう!?ずーっと、ずーっと楽し

 みにしていたのに、今ここにないっていうのはどういうことなの!!?」



 ――そう、リリーディアが怒っているのは彼女が長い間待ち望んでいた果物のケーキが

 テーブルの上に並べられていなかったことが原因だった。

 他の者からすればそんなことで済まされてしまうことも、彼女にしてみれば怒る大きな要

 因である。それでけ、リリーディアはリジュナで作られたケーキが自分の目の前に並ぶこ

 とを心待ちにしていたのだ。それを裏切られたことに対する怒りは、生半可ではない。



 「もっ申し訳ありませんっ!!ですが、リジュナは……あっ」



 あまりにも彼女が怒っているので、侍女は謝りつつもついつい仲間内で言い含められて

 いた内容を口から滑らしてしまいそうになる。

 それを、はらはらと眺めていた他の侍女たちが慌てて止めた。



 「いっ今すぐ厨房に問い合わせてみます!紅茶をもう一度入れなおしますので、どうか先

 に他にケーキをお召し上がりになって――」



 ください、という言葉は、強い口調のリリーディアによって遮られた。



 「リジュナは、なに?」

 「えっあの、そのっ」

 「答えなさい。リジュナが、どうしたというの?」



 彼女に問い詰められた侍女は、半泣きになりながら何とか先ほどの言葉を誤魔化そうと

 するが強い調子で聞いてくる主にとうとう逆らえなくなり、重い口を開く。

 周りの侍女たちは、どこか諦めたような鎮痛な面持ちでその様子を眺めていた。



 「じっじつは、リジュナを…――」





 侍女の口から語られた内容。それは、リリーディアが第二王女の地位を有する自国の置か

 れた深刻な状況を窺わせるに値するものだった。

 

 

 (2)に続く。







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