【優しい温度/江由】 ********** 少し、話したかっただけだった。最近、薔薇の館に来ないから…。 だから、滅多に行かない3年生の階に私から行ったのに。 「由乃ちゃん。そろそろ何で怒ってるか教えてくれてもよくないかしら?」 「だから、怒ってません」 両思いになれたからの油断か、いつも近くにいたからか、すっかり忘れていた。 彼女は全校生徒が憧れる黄薔薇様なのだ。 自分の怒りの理由が、子供っぽい事は分かっているが、一度苛つき始めたら中々収まらない。 彼女が困ってる時間に比例して、呆れが現れてきてるのも気付いているが、口を開けばつい苛ついた口調になってしまう。 どれも可愛くないな、私…。 「今日は帰ろうかな。明日になったら、少しは理由教えてね」 その言葉と、立ち上がる音に体が反応する。 江利子様に背を向けて座っていたので(これも可愛くない)慌てて振り返った。 「わっ!」 「フフッ、引っかかった。由乃ちゃん、全然こっち向いてくれないから」 「だ、だからって急に抱きつかないで下さい!」 確かに江利子様を見た事は成功かもしれないが、顔が近すぎる。いくら昔とは違うといっても、又心臓発作を起こしたらどうしてくれようか。 「理由を教えてくれるまで放さないわよ」 「えぇっ!」 「ほら、早く言わないとこの儘押し倒すわよ。その方がいいなら話は別だけど」 「自分の都合よく話を進めないで下さい!」 「じゃあ、話してくれる?」 そんな笑顔で言われたら、断れる訳がないじゃない。ずるい。 「昼休み、見たんです」 「見た?」 後の言葉を続けるのが嫌で、江利子様の後ろにある紙袋をチラッと見た。本人もそれに気づいたみたいで、一緒に後ろを振り向いて納得した顔を見せた。 「これ貰った事に怒ってるの?」 「怒ってる訳じゃ…」 「じゃあ焼き餅」 顔が赤くなるのが自分でも分かった。 だから、彼女が笑ったのもそのせいだと思った。 「やっぱり」 「え?」 「原因がこのカップケーキだって事ぐらい気付いてたわよ。だって由乃ちゃん、学校出る時からずーっとこればっかり睨んでたから」 今度は耳まで赤くなってきたと思ったら、江利子様も限界だった様で、声を出して笑い始めた。 もう我慢出来ない。 一瞬紙袋に手を伸ばしそうになったが、私だってそんな酷い人間じゃない。急いで私の後ろにあったクッションへと手を戻し、標的の顔へと投げつけた。 ボフッと、見事な音がした後に現れた江利子様の顔は、正しく目が点と化していた。 「そ、そんなに人の事を馬鹿にするのが楽しいんですか?!どれだけ私が苛々したと思ってるんですか!なのにそんなにゲラゲラ馬鹿笑いして…。……馬鹿。江利子様の馬鹿っ」 鹿を言い終わるよりも少し早く、江利子様の腕が、ソッと首に回された。 さっきと違うのは、彼女の顔は私の隣にあり、声のトーンが少し下がっていた所。 「ごめんね」 江利子様の髪が首筋に当たってこそばい。 「そんなに怒るとは思ってなかったの。からかってごめんね」 「…分かって下されば、別に…」 こんな声を聞くなんて滅多にないから、少し調子が狂う。 「あれね、私達黄薔薇姉妹で食べて下さいって、2年生がくれたの」 「私達、に?」 「そう。私と令、そして由乃ちゃん3人が好きなんですって。だから3つ入ってた」 「令には帰る前に会って渡しといた。私と由乃ちゃんの分は一緒に食べようと思って残しといたの」 「…」 「由乃ちゃんがこれを気にしてるのは分かってたけど、見られてるなんて知らなかったから、そんなに焼き餅焼かれるとは思ってなかって。だから言い出せずにいて」 「っ!」 一旦下がった筈の顔の温度が、又上がってきた。これじゃ、本当に私の怒りは子供と一緒じゃないか。 「本当に、分かりましたから…だから放して下さい」 此処で素直にごめんなさいの一言が出てこない自分が嫌だ。 でも彼女はそれも理解してくれていた。 「本当に?」 「本当です」 「じゃあ好きって言ってくれたら放してあげる」 「すっ?!」 「今度は本気だからね」 こんな調子で来られるから、直ぐ私がつけあがるんだ。 「…なんで最後は甘いんですか」 「え?」 「一人でふてくされてた私が悪いのに…」 その優しさに、何処までも浸ってしまいそうで、時々怖くなってしまう。 ずっと横にあった頭が放れて目の前に来てくれたけど、首に回された腕は解いてはくれなかった。 少し考えている顔をしたが、それも直ぐに優しい笑顔に変わった。いいタイミングで、開いてた窓から流れ込んだ微風に、江利子様の髪がフワッと揺れた。 「惚れた弱味」 「ハァッ?!」 「可愛い可愛い由乃ちゃんだから、何でも許せちゃうの」 江利子様って呼び方を変えて欲しいって、最後に聞こえた気がしたが、私の頭はそこまで回ってくれなかった。 こんな恥ずかしい言葉をサラッと言えるのを、流石鳥居江利子と言うべきなんだろうか。 いや、言ってやんない。それこそ思う壷だ。 その代わり、今の私に出来る最大の仕返しをしてあげる。 もう少し、可愛くなれるよう頑張るから。 好きです、江利子さん ********** 毎度題名に悩まされています 書いた事ないcpを書いてみたくて由乃にしてみました でも、何か江利子のキャラを上手く出せなかったような… 今度は誰とのcpにしようか 聖は…やらんと思われます笑。 ここまで読んでくださりありがとうございましたm(_ _)m |
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