【優しい温度/江由】

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少し、話したかっただけだった。最近、薔薇の館に来ないから…。
だから、滅多に行かない3年生の階に私から行ったのに。



「由乃ちゃん。そろそろ何で怒ってるか教えてくれてもよくないかしら?」
「だから、怒ってません」



両思いになれたからの油断か、いつも近くにいたからか、すっかり忘れていた。
彼女は全校生徒が憧れる黄薔薇様なのだ。






自分の怒りの理由が、子供っぽい事は分かっているが、一度苛つき始めたら中々収まらない。
彼女が困ってる時間に比例して、呆れが現れてきてるのも気付いているが、口を開けばつい苛ついた口調になってしまう。

どれも可愛くないな、私…。


「今日は帰ろうかな。明日になったら、少しは理由教えてね」

その言葉と、立ち上がる音に体が反応する。
江利子様に背を向けて座っていたので(これも可愛くない)慌てて振り返った。

「わっ!」
「フフッ、引っかかった。由乃ちゃん、全然こっち向いてくれないから」
「だ、だからって急に抱きつかないで下さい!」

確かに江利子様を見た事は成功かもしれないが、顔が近すぎる。いくら昔とは違うといっても、又心臓発作を起こしたらどうしてくれようか。

「理由を教えてくれるまで放さないわよ」
「えぇっ!」
「ほら、早く言わないとこの儘押し倒すわよ。その方がいいなら話は別だけど」
「自分の都合よく話を進めないで下さい!」
「じゃあ、話してくれる?」

そんな笑顔で言われたら、断れる訳がないじゃない。ずるい。

「昼休み、見たんです」
「見た?」

後の言葉を続けるのが嫌で、江利子様の後ろにある紙袋をチラッと見た。本人もそれに気づいたみたいで、一緒に後ろを振り向いて納得した顔を見せた。

「これ貰った事に怒ってるの?」
「怒ってる訳じゃ…」
「じゃあ焼き餅」

顔が赤くなるのが自分でも分かった。
だから、彼女が笑ったのもそのせいだと思った。

「やっぱり」
「え?」
「原因がこのカップケーキだって事ぐらい気付いてたわよ。だって由乃ちゃん、学校出る時からずーっとこればっかり睨んでたから」

今度は耳まで赤くなってきたと思ったら、江利子様も限界だった様で、声を出して笑い始めた。

もう我慢出来ない。
一瞬紙袋に手を伸ばしそうになったが、私だってそんな酷い人間じゃない。急いで私の後ろにあったクッションへと手を戻し、標的の顔へと投げつけた。

ボフッと、見事な音がした後に現れた江利子様の顔は、正しく目が点と化していた。


「そ、そんなに人の事を馬鹿にするのが楽しいんですか?!どれだけ私が苛々したと思ってるんですか!なのにそんなにゲラゲラ馬鹿笑いして…。……馬鹿。江利子様の馬鹿っ」


鹿を言い終わるよりも少し早く、江利子様の腕が、ソッと首に回された。
さっきと違うのは、彼女の顔は私の隣にあり、声のトーンが少し下がっていた所。

「ごめんね」

江利子様の髪が首筋に当たってこそばい。

「そんなに怒るとは思ってなかったの。からかってごめんね」
「…分かって下されば、別に…」

こんな声を聞くなんて滅多にないから、少し調子が狂う。

「あれね、私達黄薔薇姉妹で食べて下さいって、2年生がくれたの」
「私達、に?」
「そう。私と令、そして由乃ちゃん3人が好きなんですって。だから3つ入ってた」
「令には帰る前に会って渡しといた。私と由乃ちゃんの分は一緒に食べようと思って残しといたの」
「…」
「由乃ちゃんがこれを気にしてるのは分かってたけど、見られてるなんて知らなかったから、そんなに焼き餅焼かれるとは思ってなかって。だから言い出せずにいて」
「っ!」

一旦下がった筈の顔の温度が、又上がってきた。これじゃ、本当に私の怒りは子供と一緒じゃないか。

「本当に、分かりましたから…だから放して下さい」

此処で素直にごめんなさいの一言が出てこない自分が嫌だ。
でも彼女はそれも理解してくれていた。

「本当に?」
「本当です」
「じゃあ好きって言ってくれたら放してあげる」
「すっ?!」
「今度は本気だからね」

こんな調子で来られるから、直ぐ私がつけあがるんだ。

「…なんで最後は甘いんですか」
「え?」
「一人でふてくされてた私が悪いのに…」

その優しさに、何処までも浸ってしまいそうで、時々怖くなってしまう。

ずっと横にあった頭が放れて目の前に来てくれたけど、首に回された腕は解いてはくれなかった。

少し考えている顔をしたが、それも直ぐに優しい笑顔に変わった。いいタイミングで、開いてた窓から流れ込んだ微風に、江利子様の髪がフワッと揺れた。

「惚れた弱味」
「ハァッ?!」
「可愛い可愛い由乃ちゃんだから、何でも許せちゃうの」

江利子様って呼び方を変えて欲しいって、最後に聞こえた気がしたが、私の頭はそこまで回ってくれなかった。

こんな恥ずかしい言葉をサラッと言えるのを、流石鳥居江利子と言うべきなんだろうか。
いや、言ってやんない。それこそ思う壷だ。


その代わり、今の私に出来る最大の仕返しをしてあげる。
もう少し、可愛くなれるよう頑張るから。




好きです、江利子さん







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毎度題名に悩まされています


書いた事ないcpを書いてみたくて由乃にしてみました
でも、何か江利子のキャラを上手く出せなかったような…

今度は誰とのcpにしようか
聖は…やらんと思われます笑。



ここまで読んでくださりありがとうございましたm(_ _)m



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

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