拍手ありがとうございます。 お礼SSはCP無し、現世組ほのぼのです。 ↓ 『おうだんほどうは、てをあげてわたりましょう』 高校生になった僕達の中で、今、この言葉を守っている人はどれくらいいるのだろう。 「どうしたの?」 突然、読んでいた本から視線を上げて周囲を見渡したのが、変に映ったのだろう。 後ろの席に座っている小島君が声を掛けてきた。 「小島君は子供の頃、横断歩道を渡るときに、手を挙げてた?」 僕が後ろを向いて尋ねると、そんな事を聞かれるとは予想もしていなかったのか、彼は一度瞬きをして、首を横に振った。 「僕はしてなかったな」 意外な答えに少し驚いた。 「どうして?」 「理由が分からなかったから。手を挙げなくたって、信号が赤なんだから車は止まるって思ってた。あと、みんなで手を挙げてるなんてなんか異様な光景じゃない?」 そんな事を考えていたのか。 僕は年長者の教えは守るべきだと思っていたし、手を挙げる行為に対して疑問を抱いたことはなかった。 「石田くんは?」 「僕は挙げてたよ。小学校高学年になって、手を挙げている大人がいないことに気付いてからは止めたけど」 義務ではないと知ると、手を挙げていた自分を何故か恥ずかしく感じた。 一旦止めてみると、面倒だったことも手伝って、習慣だったはずの行為も滅多にしなくなった。 「ちょっと意外」 「どうして?」 「まだ挙げてそうだから」 そうかな、と聞くと小島君は笑顔で頷く。 「そういえば、啓吾はまだ手挙げて渡ってるよ、時々」 浅野君が、ということに少し驚いて、へぇと反応を返した時に、次の授業の教師が入って来たので口を噤んだ。 授業後。 「さっき、お前ら何話してたんだ?」 授業前だから行けなくて気になってさ、と言いながら、浅野君がやってきた。 「啓吾は横断歩道で手挙げてるよって話」 小島君が答えると、ぽかんとした顔で僕を見る。 「へ?石田挙げねぇの?」 「今はね」 「まじかぁ」 浅野君は問いに対する僕の答えに、何故か頭を抱えた。 「急いでる時とか、勝手に挙がんねぇ?通りますよ、みたいな」 僕と小島君は二人で横に首を振る。 「チャドは…挙げないよな」 いつの間にか浅野君の後ろにいた茶渡君は、ムと小さく頷いた。 やっぱり、と浅野君は落胆した様子を見せる。 「だってさ、俺はここにいますって。存在証明みたいなの、しなきゃ危ねぇだろ」 浅野君が言った中の、ある言葉が、とても印象に残った。 「存在証明って格好良くね?」 浅野君は、自分の言葉に対して満足気に続け、小島君は適当に相槌を打っている。 そんな彼らのやりとりは、ほとんど素通りしていった。 放課後、夕焼けが綺麗な秋の空を見ながら、帰路を辿る。 横断歩道の信号が変わるのを待っている時、ふと浅野君の言葉を思い出した。 青になった信号を見て、左右を確認する。 小さく息を吸って吐くと、自分の呼吸音が聞こえた。 足を出す前にもう一度息を吸って、手を上げる。 僕はここにいます。 横断歩道を渡りきって、改めて呼吸をすると、秋風が身体の中を洗っていくような心地がした。 ありがとうございました。 |
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