*鎧アルエド
真夜中。しんと静まり返った街。
ツインベッドの1つで、兄さんが寝息を立てている。
一人で過ごす夜には、もう慣れた。
ただ、最近覚え始めた感情をどうすればいいのか、それだけが問題だった。
――実の兄に抱いてしまった、この感情。
『特異的な状況下では、恐怖心や緊張感を、しばしば恋情であると勘違いしてしまう』
以前何かの本に書いてあった一説。
もしかしたら、ボクのこの気持ちも、鎧の姿になってしまったせいかもしれないと、何度も思った。
打ち消しても打ち消しても、それを上回る想い――引き込まれるように兄さんに溺れていく…
この募る想いは消すことはできない。
バサッと兄さんが被っている毛布が音を立てたので、びくりと体を竦ませた。
寝返りを打った兄さんが、ちょうどこちらに向いていて、その寝顔がよく見える。
月の光に照らされて、スポットライトのように兄さんの端正な顔を映し出している。
「兄さん……」
頬に手を当てかけて、止めた。
代わりに指先だけをそっと伸ばして、兄さんの口唇に触れさせる。
感覚なんて全くないはずの指先が、じんと痺れたような気がした。
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