1.切ないキス






*鎧アルエド





真夜中。しんと静まり返った街。

ツインベッドの1つで、兄さんが寝息を立てている。

一人で過ごす夜には、もう慣れた。

ただ、最近覚え始めた感情をどうすればいいのか、それだけが問題だった。

――実の兄に抱いてしまった、この感情。

『特異的な状況下では、恐怖心や緊張感を、しばしば恋情であると勘違いしてしまう』

以前何かの本に書いてあった一説。

もしかしたら、ボクのこの気持ちも、鎧の姿になってしまったせいかもしれないと、何度も思った。

打ち消しても打ち消しても、それを上回る想い――引き込まれるように兄さんに溺れていく…

この募る想いは消すことはできない。



バサッと兄さんが被っている毛布が音を立てたので、びくりと体を竦ませた。

寝返りを打った兄さんが、ちょうどこちらに向いていて、その寝顔がよく見える。

月の光に照らされて、スポットライトのように兄さんの端正な顔を映し出している。

「兄さん……」

頬に手を当てかけて、止めた。

代わりに指先だけをそっと伸ばして、兄さんの口唇に触れさせる。

感覚なんて全くないはずの指先が、じんと痺れたような気がした。






 



ありがとうございました!

『5つのキスのお題 F・ノーマルその2』より

お題提供:【5つのキスのお題配布所】






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