文書のタイトル



【蜜言】


密集、密閉、密着

これらを全て禁止された3年を過ごし、気が付いたことがある


「なんか最近、嬉しいのですが」


俺に背中を預けていた君が、首を後ろに傾けてくる
髪が俺の喉を擽り、すこしこそばゆくて、それがまた心地よい


「なにが」


画面に向けていた視線を君へと落とし、言葉の先を問う


「前はこんな風に過ごすの、あまり好んでいないと思っていたから」


こんな風に、はきっと今のこの態勢の話だろう
甘えたがり、接触したがりの君は、隙を見ては俺の温度を欲しがっていた

一方で俺は、自分から触れることはほとんどしないし、割とすぐに離れたがった
好んでいないわけではないが、ただ単純に恥ずかしかったのだ


そして離れたあとの、冷えていく身体が嫌だと思う自分が怖かった


君を失うことを、俺はこんなに恐れていると実感するのが怖かった
それも、たかが温度一つで、こんなにも

裏を返せばそれは、それほど君を求めているという証で
あまりに嵌りすぎている自分自身も、また恐ろしかったのだ


冷静でいなければ
自分を持っていなければ


そうしないと、いつか君を酷く傷つけてしまうかもしれない
そんなの、まっぴらごめんだ


そんなことを常に考えていたせいで、目の前にいる君が、ちょっとずつ傷付いている事実には気が付いていなかった


「ちょっとばかり、反省をしてな」

「反省?なにか悪いことしていたの?やましいこと?」


驚き半分、可笑しさ半分といった表情を見せてくる
感情の隙間に、ほんの僅かな不安も覗かせながら

実に雄弁な瞳だな

安心をさせるように柔らかな髪に唇を落とせば、ぱちぱちと瞬きをし、
それから、うふふと笑みを零した
その髪から香る、俺と同じ匂いに背中を押される


「反省と、あと、世間が色々禁止している頃に気が付いたことがあってな」


他人との接触が苦手だった俺には、触れてはいけないことが、そんな苦痛ではなかった

……はじめのうちは


月日が経つごとに、声高々に禁止されていた性もあるのかもしれない
俺は自他ともに認める、天邪鬼だから


君の手を見るたびに、触れたい、温度を感じたいと願うようになっていった


そしてまた時が経ち、緩やかに規制が解除をされていく中で、君の温度に触れる機会も増えていった
そんな中で気が付いた

俺は、君と触れ合うことが単純に好きなんだ
恥ずかしいという感情で隠していたが、温度で確かめ合える安心感は、全くもって悪くない


「こんな風に過ごせることが、しあわせっていうことなんだろうなと」


そう素直に口に出してみれば、恥ずかしさよりも、君の頬がうっすら上気していくその様を見れる多幸感が上回る


「あと、年を取って、色々な拘りから、ちょっとずつ自由になってもいいんじゃないかと」


色々な拘りが締め付けているのが、俺自身だけだったらよかったのだが
周りの大事な人にも影響するのであれば、そんな拘りに意味はない


君の背中がより俺に密着し、胸にかかる重みが増した


「年を取るのも、悪くないね」

「……あぁ、全くだ」


下ろしていた腕を君に巻き付け、隙間のないほど君と密着する
俺の腕の中にいる君は、今、どんな顔をしているのやら


触れられなかった3年分、こうやって取り返してやろうかね

素直になれなかった分を含めたら、3年どころじゃ足りんが、それまで口に出したら
甘ったれなで接触したがりの君がどんな暴挙に出るかわからないから、今はまだ俺の心のうちに留めておく


「ゆうじは、人をしあわせにする天才だね」

「それは、お互い様なんじゃないかね」


さっきと同じように、君が首を俺に傾けてくるから
それを合図にお互いの温度を分け合った


大丈夫、これからも節度と敬意をもって、思う存分

君と密になる






*どうも、おひさしぶりです 生きていました




感想や一言あればお気軽に♪(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。