拍手ありがとうございました。
以下はGW新刊の一部です。
本になった時に修正等あるかもしれませんが、そちらはご容赦下さい。
pixivに削除前提でアップしてあるものと同じですが
こちらは削除する予定はありません



数日後に英国で行われるジュニアの大会。
 そのスケジュール組みや打ち合わせの為に、大会に招待された各学校の部長が寄った時の出来事だった。
 白石はこの為だけに上京は難しい為、後ほどここで決まった事を電話か何かで最終的に擦り合わせる予定で、ここにいるのは跡部と手塚とそして幸村の三人だ。
 本来ならば義務教育中の身である中学生に海外遠征のスケジュール組みなど任されたりはしないが、この大会での保護責任者である各校の監督方に絶対の信頼を得ている彼らにはそういったことも託される。
 打ち合わせの地は氷帝となり、生徒会室がその場となった。
「予定よりかなり早く終わったね」
「大体俺が知っている場所だったからな。想像がつきやすい」
 数年前まで跡部が住んでいた土地が滞在のメインだったおかげで、宿泊場所や練習場、そして試合会場までの距離感も掴めたので、各スケジュールの配分もあっさりできる。
 理が通っていれば文句をいう性格の者はここには居ないため、この会議の終了予定まであと一時間以上も残して全てまとめ上げてしまった。
「そうだね、助かったよ。効率よく動けそうだ」
「向こうで日程に余裕があるわけじゃねーし、無駄は省きたいからな」
 そこは大会でライバル校同士になるとしても同じだった。
「だけど小学生の時の跡部って想像が付く様な、付かない様な不思議な感じがするよ」
「アン?」
「向こうで居たならランドセル背負ってた訳じゃないのは分かるけど。どんなんだったと思う?手塚」
 黙ったまま仕上げたスケジュールに不備が無いか、もう一度見直していた手塚に幸村が笑みを浮かべて問う。
「イギリスで居た頃の跡部ってどんなんだったんだろうって」
 書類に落としていた視線を、名前を呼ばれたことで幸村の方へ向けた手塚に改めて聞いた。
「ほら、俺達は互いに小学生の頃を知っているけどさ」
 跡部のこめかみが少し動く。
 そこは、跡部の知らない部分だ。
 面白くない。
 知らない部分と言えば青学での彼だってそうだが、そこは氷帝での自分と同じく互いの場所としての意識があるので心が騒ぐ理由とはならなかった。
 しかし、会話の仕方は含みを感じる幸村の言い方と、まだ手塚に聞いた事がない頃の話は愉快なはずがない。
「あ、もしかして手塚は跡部にもう昔の話を聞いた事があるのかな?」
「今は関係ねーだろ、そんな事」
 会話に手塚が加わる前に話を終わらせようと口を挟んだ。
「いいじゃないか、時間もあるんだし。知りたいよね?手塚」
「俺は……」
「手塚、それ貸せ。榊監督に報告してくる」
 それでも進めようとするこの会話を阻止する為に、跡部は手塚の持つ書類に手をかける。
 まだ最後までチェックしきれていなかったので手塚は少し渋る動きを見せたが、もう充分練ったと跡部はそれを奪い取った。
「さっさと終わらせるに越した事ねーだろ。俺はこの後に部へ出てえし、無駄話してる暇は無……」
「小学校の頃の手塚は本当に強かった」
 今度は幸村が真剣味を乗せた声で話を切る。
「勿論、技術的には今の方が凄いけどね。だけど、あの時の手塚は一人だったから」
 変化した会話の色に、跡部も思わず動きを止めた。
「俺は悔しかったよ。あんなに俺と良い試合をした君が、全国にすら出てこれない学校で埋もれてしまって、その後対戦する事すら叶わなかったんだから」
 今、幸村が話している思いは、かつて跡部も同じ考えだった。
 一年の時にすでに誰よりも強かった彼が、馬鹿らしい部のルールで関東大会に出ていなかったと聞いた時は大きく呆れたものだ。
「まぁ、俺達は情けなくもその学校に優勝を取られてしまった訳だけど。けどね、手塚。君個人はどうなんだろう」
「……」
 だからこそ幸村が言おうとしている事が、跡部にも分かる。
「俺はある意味、小学校の時の手塚の方が強かったと思う」
「それは……」
 手塚が口を開きかけた時、背後の扉に何かが外からぶつかった音がした。
『押すなって、ジロー!ぶつかっちまっただろ!』
『がっくんが避けないからだし』
『いやいや、ジロー。岳斗が避けてもお前がドアにぶつかったやろ、今のは』
 そこから聞こえる声は、聞きなれ過ぎたもの。
 跡部は溜息を吐きながら、扉を開ける。
「おわ!」
 突然開いたので、内開きのドアにくっついていたらしい向日は部屋に倒れこむ形になった。
 その後ろに芥川と忍足が立っている。
「お前ら……部に出てるんじゃなかったのか」
「うん、だからがっくんと誘いにきた」
「俺は付き添い」
 床とお友達になっている向日を助け上げながらいう忍足の表情は、付き添いというより面白そうだから付いてきたのが見え見えだった。
「別に迎えなんかいらねーよ」
「誰が跡部迎えにきたって言ったの」
「はぁ?」
「今日は大層なゲストが二人もおるやん」
 突然賑やかになった生徒会室で、この騒動には関係ないだろうとただそちらを見つめていた他校生二人に氷帝メンバーの目線が揃う。
「こいつらはテニスしに来たんじゃねえ。というか、俺は生徒会室で打ち合わせがあるとしか言ってねーぞ」
 こんな事になると分かっていたので、二人の来訪は彼らに伝えていなかった。
「手塚にメールで教えてもらったし!」
「……手塚、お前」
 跡部に睨まれるが、手塚は何が悪いのか分からない様で少し首を傾げる。
 こんな時は本当に天然だと内心跡部は肩を落とした。
「宍戸達もコートで待っとるわ。ラケット、使い慣れんで悪いけど部にあるの貸すし」
「打ち合わせ終わったら打とうぜ」
 そんな跡部の心中など気にもせず、押しかけてきた三人はすでにやる気満々だ。
「もう打ち合わせは終わったんだけどね」
「他校の我々が勝手に加わるのは良く無いだろう」
 氷帝の連中と打つ事自体は抵抗のない様子の誘われた二人は、通さねばならない筋の部分を気にした。
「監督にはさっき許可取ってきたぜ」
「ちゅーか、ラケット貸してやれ言うたん監督やしな。あ、着替えもあるで」
 しかしそれもあっさりと解決する。
 部長を差し置いてこいつらは……と跡部が頭を抱えた隙に芥川が手塚と幸村の元へ駆け寄った。
「これだったらいいでしょ?二人とも」
「そうだね、俺は構わないよ。手塚は?」
 机に手をついて跳ねながら話してくる芥川に、とある後輩を思い出しながら幸村は肯定して隣に座る手塚に振る。
「許可があるなら俺も構わない」
「やったぁ!」
「……っ」
「っと」
 勢い良く芥川が手塚に抱きついて、後ろに大きく傾いだ手塚の背を幸村が支えてやった。
 それを見た跡部の眉間に皺が寄ったのを気付いたのは忍足一人。
「芥川、突然抱きついてくると危ないといつも言っているだろう。すまなかったな幸村」
「ごめんねー。でも予告して抱きつくのって変だよねえ?」
「まぁ、そうかもね」
 何故か突然芥川に同意を求められて、しかしさすがと言うべきか動揺する事もなく答える幸村の手はまだ手塚の背に置かれたままだ。
「だけど、芥川は随分手塚と仲良しなんだね。メールしたり、抱きつくのもいつもって」
「手塚がねー、跡部の家に来るようになってから、仲良くな……うわっ!」
 跡部が襟首を掴んで芥川を剥がすと、斜めになった椅子が元に戻り、自然幸村の手も手塚から離れた。
「打つなら打つで、こんな所でグダグダしてねーでさっさと行くぞ」
 そこに一瞬目をやって、それから芥川と向日に向かって言う。
「はーい、がっくん行こ!」
「うっしゃ」
 俺は置いてけぼりかい、と言いつつ全く追う様子の無い忍足を残して二人は先にコートに向かって走って行った。
「手塚、コートに行く前に監督の所へ提出に行くから付いて来い」
 返事を待たず、跡部も手塚の腕を引いて早足で榊の元へ向かってしまい、忍足と幸村は二人生徒会室に残される。
「あはは、俺も置いてけぼりだ。一緒にスケジュール考えたっていうのに」
「すまんなぁ、うちの部員は部長筆頭にみんな我儘で」
「いいよ。立海だって似たようなものだから」
 二人もコートに向かうことにして、歩き始めた。
「やけど、幸村やったらさっきの跡部と手塚に付いて行くと思ったわ」
「ああ、それも楽しそうだけど……やりすぎても逆効果かなーって。見ているのに少しちょっかい出すのが面白いからね」
「……やっぱり気付いとったか」
 残された事をこれ幸いと、カマをかけてみたが予想通りの答えが返って来た。
 やはり幸村は跡部と手塚の関係を知っている。
 鋭そうなこの男が、全国大会以後何かと強豪校同士集められる中で気付かないはずはないだろうなと仕掛けてみた。
 バレているならば、分かっている者同士共有して置いた方が何かと不器用な部分もある彼らの為にもなる。
「まぁね。分かりやすいでしょ」
「跡部なー、アレで隠してるつもりなんよ。言うてもそれに氷帝は俺以外は騙されとるけど」
「うん、跡部もだけど……手塚もね」
「え?」
 青学側で知っている不二には手塚の変化は見て取れるらしいが、跡部と付き合いの始まってから側で見る事になった忍足は少なくとも『分かりやすく』はない。
 思わず聞き返す。
「……俺はやっぱり小学校の頃の手塚が好きだな」
 遠い時代を見る様に、幸村は目を細めてそう言った。




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