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 銀妙







 成績は優秀。剣道部の主将で、クラス委員長。女子からの信頼は絶大で、男子に至っては彼女に勝てる輩は居ないと来ている。
「志村」
 移動教室からの帰りなのか、姉御、と彼女を慕う神楽を連れて廊下を行く彼女に声を掛ける。
 振り返る彼女の黒いポニーテールが、開け放してある廊下の窓から吹き込んだ風に、ふわりと靡いた。
「次の授業で配るプリント、取りに来てくれ」
「判りました」
 少し目を見張ってから、彼女はくるりと踵を変えす。
「姉御~」
「先に行っててちょうだい」
 頬を膨らませる神楽に告げて、ひらりと手を振ると教科書を抱えた彼女が銀八の方に向かって歩いてきた。
 数歩手前で、銀八も向きを変えて、国語の準備室へと歩き始める。

「前の時間は生物か」
「ええ、そうです」
 妙は抱えていた教科書にちょっと目を落とすと尋ねた銀八に答える。
「ああ、あれか。生物と言えば、やっぱりおしべとめしべの話に始まる生殖の」
 次の瞬間、わき腹にストレートを喰らい、銀八は廊下に転がった。
「セクハラですよ、先生」
「こ、校内暴力反対・・・・・」

 腹を押さえて蹲る銀八に、絶対零度の視線を注ぎ、ふいっと彼女は視線を逸らした。
「プリントは準備室の机の上、ですよね?」
 取ってきますからテメェはそこで転がってな。

 すたすたと先を急ぐ彼女の、翻る制服のスカートを見詰めながら、銀八は胡乱気な眼差しで溜息をついた。



「って?」
 ヘンタイ教師を撃退し、こうして準備室へと辿りついたが、さて、妙は授業のプリントを探し出せずにいた。
「あのぼんくら教師・・・・・本当にやる気在るのかしら」
 仕方なく、彼の机を開けてみるが大量の飴とキャラメルとチョコが出てくるばかりで、肝心の物が見当たらない。傍のキャビネットを開けてみるが、そこにはかりん糖と饅頭の箱、クッキー缶が入っているだけでやはり見つからない。
 というか、学校の設備に何を収納しているのだ、あの男は。
 再び妙の眉間に皺が寄った頃、準備室のドアが開いた。

「先生、なんなんですか、このお菓子の山は」
 鋭い視線で睨みつけるも、相手はふわあ、と退屈そうな欠伸をし、「んー」とやる気なさそうに答えた。
「先生は定期的に糖分を取らないと死んじゃう生き物なんですぅ」
「・・・・・糖尿一歩手前で何を言ってるんですか」
 呆れたような妙の物言いに、ひらひらと手を振りながら銀八は机に向かって歩いてくる。
 視線をそこに戻して、プリントがどこにあるのか再び探し始めた妙は、ふと暖かな気配を感じて顔を上げた。

「っ」
 机に両手を付いた銀八が、後ろから妙を閉じ込めるように背を屈めている。
「間合いに人を入れるなんて、剣士失格じゃねぇの?」
「センセ」
 かっと頭に血が上る。にやにや笑う、こんなやる気の欠片も無い男に言われたくない。
 このまま腹部にクリーンヒットを決めるつもりで勢いよく振り返った瞬間、その手を取られ、妙は勢いよく机に押し付けられた。

「!?」
「・・・・・プリントは口実」
「は?」
 机に押さえつけられている手に力を込めるが、振りほどけない。
「大串君にね、持ってってもらったから、ここにプリントはねぇの」
「・・・・・・・・・・」
「ついでにそのプリント、自習用」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 ぎょっとしたように目を見張る妙に、銀八は酷く困ったように笑った。

「センセ」
「志村さー・・・・・鈍すぎだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 こうでもしないと、気付いてくれねぇだろ?

 振り落とし、殴り飛ばし、大声で助けを求めて、こんな教師などクビにした方が良い筈なのに。

 落ちてきた口付けに妙は碌な抵抗も出来ず、せず、ただ火照る身体に頭を抱えたくなった。

 教師と生徒。
 だから、気付いては行けない筈なのに。




 【 気づいてしまった想い 】












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