お礼小ネタ10本立て(「学生の一日で10のお題」より) 01 : 寝起き(土浦) PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi…… 枕元で目覚まし時計の音がけたたましく鳴り響いている。 止めるため腕を持ち上げようとしたが、うつぶせで寝ていたためか、 動かそうとするとびりびり痺れた。仕方なく痺れが引くまで待つ。 そう寝起きの悪い方ではない。普段なら目覚ましが鳴る前に起きることもしばしばだ。 だが今日はこの音に起こされるまで全く意識が覚醒しなかった。 ……まだ昨日の出来事が忘れられない。 妖精が出てきて、コンクールに出ろとか言う。 んなアホな。 家に向かって歩くうちに、何だか段々気のせいだったように思えてきたのに、 かろうじて保たれ始めていた心の平安は、 「金澤先生って方から電話よーなんかコンクールがどうって」という母親の言葉によって見事に撃沈した。 その日のうちにもう参加が決まっているとは。怖ろしすぎる学校だ。 PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi……Pi。 うるさくて堪らなかったので、まだ痺れる腕を無理矢理伸ばして、音を止める。 じん、とした感触が、指先から肘まで痛いような力が抜けるような刺激が伝わる。 もう少し布団から出ることはかなわなそうだ。 正直言って気乗りがしなかった。 コンクールには、嫌な思い出しかない。 ただ楽しめば良かった子供の音楽とは違って、 大人の世界の音楽は、古い格式や理不尽な順位付けやひどい欺瞞や、 そういうものに縛られて動けなくなりそうだったから。 ……でも、あいつの音はそうじゃなかったな。 普通、コンクールに出るような人間は子供の頃から楽器を始めている。 プロを目指すにつれて、そういう頃に感じた純粋な楽しさは失われるものだ… そう自分は考えていたが、昨日聞いた日野のヴァイオリンは、全然違った。 ぽんぽん跳びはねるかと思ったら、勝手に気持ちよく着地したり。 形式とか決まり事を全く考えていない。 まるで子供の音楽だ。 叩かれるのを覚悟しているのかいないのか。だが、自分には不快ではなかった。 むしろ懐かしい、子供の頃のわくわくした気持ちを一瞬でも思い出させてくれるようだった。 しょうがねぇな。 同じ普通科のあいつが、あんな無防備な音楽でコンクールに出るんだ。 普通科がなめられるのも我慢ならないし、ちょっとぐらい助けてやってもいいだろう。 それに俺も、ピアノが弾きたくないわけじゃ、ない。 やっと腕の痺れが抜けてくる。 これが動くようになったら、まずピアノを弾いて腕をならそう。 それに楽譜が確か居間の棚に沢山入れてあったはずだ。 あとはサッカー部に休部届けも出さなければ。 さすがに手を怪我する恐れがあるような部活と両立するわけにはいかない。 もしかして制服ではなくちゃんとした服を着なければならないんだろうか。 学内コンクールだから気にしなくてもいいのか?今日聞いてみよう。 そうして腕が普通の状態に戻った。のそりと体を起こすと妙な違和感が…。 ぎゅるるるるる。 ――直後大きく鳴った腹が、今までの算段を全て吹き飛ばした。 昨晩はろくに飯を食うどころではなかったの思い出す。 ……とりあえず、まずは飯を食おう。
学生の一日で10のお題なので、まずは朝から。 土浦は、普段けっこう寝起き良さそうだと勝手に思ってます(月森とは対照的に)(笑) | ||||||||||
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