吾代忍 (吾代忍、明智警視の2種類です)





ノックしてから中に入ると、副社長が片肘をつき頭を押さえながら机に向かっていた。 体の重さに腕が支えきれていなくて、顔と書類がくっついてしまいそうな距離だった。 全体的に姿勢が悪く、暗澹とした空気が漂っている。こちらを見る気力もないらしい。

「副社長、どうかされました?」
「うるせー・・・」

だるそうな返事が返ってくる。 いつもの覇気がなく、その横顔も血の気がなくて青白い。 私は手に持っていた書類を机に置いた。 俯いている副社長の顔を覗き込もうとすると、アルコールの香りが鼻を掠める。

「わ、お酒くさい!二日酔い?!」
「うるせーって言ってんだろ・・・」

頭に響くのか、副社長は顔を背けて、耳を塞ぐために腕の位置をずらした。

「さっさと出てけ」

普段の数倍機嫌が悪いみたいだ。でも凄みがないから、ちっとも怖くない。
しっしと手で追い払われたのにカチンときて、持ってきた書類を目の前につき出す。

「この書類、今すぐ目を通してサインして頂かないと困るんですけど」
「ったく、もっと早く持って来れねーのかよ」

舌打ちを交えて言われ、さらに苛立つ。 病人には優しくしろと教えられたが、この人は病気じゃない。 昨晩自分が楽しく飲んで、制限ができなかったせいで、今こうなっているのだ。

「八つ当たり? もっと可愛らしく弱ってくれてれば、私だってお水を持ってきて薬を飲ませてあげたり、この書類も遅らせられるか上司に確認したり、優しく接してあげられるのに。 少し気分が悪いからって、部下に当たるのやめてもらえますか?副社長」

わざと耳元で、彼の役職を呼ぶ。 未だ頭を腕で支えながら、ぎろりと睨んでくる。

「大体朝まで飲む時間があるなら、可愛い恋人のために時間を使ってあげようとか思わないの?ねえ!」
「誰が可愛い恋人だよ」
「メールも素っ気ないし、いつも『忙しい』って言って会ってくれない。月末だからって我慢してたけど、違うじゃん!飲みに行く時間あるじゃん!」
「マジでもう少し声のトーン落とせって・・・」
「忍くんの馬鹿!二日酔いでこのまま死んじゃえ!」

死ねとか言うなよと、か細い声で呟きながら、とうとう机に突っ伏した。 その弱々しい姿に不安になって、肩を揺すって名前を呼ぶ。 すると、顔を伏せたままの忍くんが、私の名前を呼んだ。いつも「おい」とか「お前」とかなのに、珍しい。 当然鼓動が早まる。

「マジで結婚したいくらい愛してるから、水と薬持ってきて・・・」
「結婚したいとか愛してるとか、お酒の入った状態で言うな!」

忍くんの頭を叩いてから、水と薬を取りに、副社長室を出た。 少し小走りになっているあたり、私はさっきの言葉が嬉しかったのかもしれない。
ついでに書類のことも話をつけておいてあげよう。 先に自分の部署に戻って、上司のところに向かう途中で、同僚に顔が緩んでいると指摘されてしまった。













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