pussycat











拍手ありがとうございます。
(銀魂・銀→←妙)












この国の人間は桜が好きだという。無論俺も含めて。それが7分咲きの風情だろうが、満開の目も眩む薄紅色の渦だろうが、散り際の潔さだろうが、とにかく遺伝子レベルで刷り込まれたようにこの花を愛でる。その下で酒を飲む口実にもなる。長い時を共に歩んで来た友との別れを惜しむ事も出来る。また再会の奇跡を起こす事もある。この国が侍の魂を持つ者を尊ぶように、ある種の誇りを持ってして、この花を愛でるのだ。


「今年の桜は、早かったですね」


仕事帰りのお妙を偶然を装って送る帰り。ぽつりと隣の女は云う。明け方に近い深夜だが、月明かりが明るい夜なので足元はよく見える。俺は酔ったふりをしている。女に会う口実が欲しかったなどとは口が裂けても言うつもりはない。女がそんな言葉を望んでいるとも思えない。だだの野良猫を装って、こうして密やかな時間を過ごすのが好きだった。

「雨が多かったからなァ、あらかた散っちまっただろ」
「お花見も、楽しかったですけどね」

女が目を細めて笑う。新八が万事屋に勤め出した年から恒例の、ささやかな花見。もう何回目になるのかと考えて、女がもう少女と呼ぶ歳でも無くなったと気付く。出会った時からひどく大人びた雰囲気を持っていたから、子供扱いをした記憶も無いのだが。

「でも、わたし、散り際の葉桜が一番好きなんですよ」
「潔さが好きってヤツ?…でも、カッコ悪くてもみっともなく足掻いてくれた方が、俺は好きだねェ」

その方が、酒飲む口実だって増えるじゃん。言い訳のようにそう付け足して、ちらりと隣の表情を伺う。穏やかな笑みを浮かべた女から感情は見えない。頼むからそんな顔をしないでくれ。喉まで出かかった言葉をゴクリと飲み込む。何もかも捨てて鮮やかに散ってしまう花など、俺は望んではいない。たとえいつか枯れてしまうものだとしても。

「そうではなくて、次の世代に託すんですよ、あの桜は。また再び花を咲かせるために、散るんです。そうして毎年皆を楽しませると、知っているんでしょうね」

こちらを向いた女が、とても綺麗に笑うので。月明かりの下でも分かるほどに、うつくしい笑い方だったので。意識もせずにその腕を引いて、自身の胸の中に閉じ込める。細い身体を抱きしめてから、こんなにも自分がこの女を欲していたのだの気付いた。甘い香りが何かを狂わせてゆく。お妙は何が起こったのかも分からないのか、大人しく腕の中に収まっている。

「ぎ、ん、さん?あ、あの、」
「わざわざ散らなくてもさァ、託して見守るとか出来るじゃん?」

だから散り際が好きだなんて言うなよ。耳元で囁けば、その白い肌が薄紅に染まる。こんなダメ男でも意識してくれてんのかな。大人気なく少しばかり心が弾む。

「分かりました、だから、あの、えっと、は、離して、ください」

抵抗などしないくせに、口では気丈な事を言っている。可愛いな、などと言えば殴られるかもしれない。まだ肌寒い春先の風が頬を撫でる。火照った顔が冷やされて心地がいい。このまま酔った勢いで言ってしまおうか。



(俺の隣でこれからを見守ってくれませんか)








柄でもないとは分かっちゃいるが













ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます) お返事はmemoにて

あと1000文字。