99.月 今日の月は、やけに眩しい。それは、雲ひとつ無い漆黒の空に浮かぶ宝石のようで、美しく輝いている。このような素敵な日は、エイルとイルーズは中庭で月見をすることが多い。 古めかしいテーブルの上に置かれているのは、酒と果物のジュース。それに、木の実のパイだ。これが、今日の月見セット。エイルは翌日の仕事に関係するので、果物ジュースを飲む。 「美味いか?」 「うん」 「今日は、敬語じゃないんだ」 「敬語の方がいい?」 「いや、此方がいい」 弟の言葉に苦笑するイルーズは、酒を一口口に含む。2人でいる時は、堅苦しい言葉は使わないで欲しい。それが、イルーズの考え。しかし、父親の前では敬語を使うようにと付け加えた。 「それは、わかっているよ」 「それならいい」 「で、これ美味しいね」 エイルはパイを摘むと、大口で頬張る。酸っぱい木の実とパイ生地の甘さが上手く混じり合い、とても美味しい。いつくでも食べられそうであった。バクバクとパイを食べる弟の姿にイルーズは優しい視線を送ると、パイを全て食べていいと皿ごとエイルの前に差し出した。 「有難う」 「お前は、沢山食え」 「兄さんはいいの?」 「弟が喜ぶ顔を見たい」 イルーズの言葉に、エイルは何も言えなくなってしまう。弟を想う兄の気持ち、とても嬉しかった。 エイルは手に持っていたパイを全て口に運ぶと、空に浮かぶ月に視線を向けその美しさを楽しむ。 「この日もいいね」 「そうだな」 互いに忙しい日々を送っているので、たまにはこのような休憩も必要である。それに美しい物を眺めると、気分が落ち着く。このことに関してはフレイも了承し、特に咎めることはしない。ただ息子達の月見を私室から眺め、仲のいい兄弟の姿に口許を緩めるのであった。 永遠の平和を―― 月に祈り、月の光の冷たさに人生の非情を愁う。 「お前達は、誇りだ」 フレイはポツリと呟くと、部屋の奥へ戻って行く。自分達が見られていたことに気付いていないエイルとイルーズは、ただ月を愛で長く語り合う。これから互いに進むべき道を―― ――終わり―― |
|