「市場で面白い噂を聞いたよ」
「…そうか」

 アリスの声を背後に聞きながら、ロイドは机に向かって銃の手入れをする。分解して細かい部品まで掃除し、必要な箇所に油を注していく。
 だんだんと深まっていく秋の冷たい空気が夜の闇に溶ける。都市の中心部という事もあって賑わいを見せる大通りだが、今は車通りも少なく静寂に閉ざされている。治安が悪いという訳ではないが、こんな夜も更けた時間帯に出歩こうとする者はあまり居ない。
 スタンドライトの灯りに照らされるロイドの横顔を見ながら、壁に寄りかかったアリスは続ける。

「3つの国を分ける“壁”に穴が開いたらしい」
「…どういう事だ」

 目線を外さずにロイドは問う。手の中で分解した銃が元の姿に戻ろうとしていた。

「そのままの意味さ。“壁”がなくなって、自由に行き来ができるようになってる」
「…それで、どうしたいんだ?」


*続きます。



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