その杖は翠玉を思わせる独特の光沢を持ち、精緻な文様が刻み込まれている。
 材質はと問われれば、姿形のみでは計り知れず、手に持ち打ち合って初めて鋼と気づく。
 鮮やかな見た目とは裏腹に実直な武器なのだ。

 変人発明家と異名をとる評曳が、評絃の息子であることを思えば、彼の手による武器がこの一品でしかないことは意外なのかもしれない。
 けれどまた、この一品があるだけでもまだ名だたる刀匠評絃の血筋である面目を辛うじて保っているのだと言えなくもない。
 しかしこの杖の存在は、製作から数年は確実に世から隠されていた。彼の兄は武器を打つがこれを振るわず、彼自身も武芸はからきし。では彼同様に梧軍へ志願しに飛び出した妹はといえば、これを操るべき腕力もりょ力も技能も圧倒的に不足しており、やはりこの武器にはふさわしくなかった。

 人を選ぶ武器であると言う一点において、評の名を持つ業物らしさがある。

 彼の製作した数々の奇妙な彫像に紛れて物置に転がっていたそれを、玉蘭が見つけて手にとったのは、ある種の偶然であり、必然だった。
 このとき彼女は、珠粋を封印する心づもりでいたから、新たな武器を欲していた。
 しかしさすがに叔父にそれを頼むことも憚られ、どうしたものかと思案もしていた。

 彼女が物置倉に入り込んだのは、楽師の父が残した琴の調絃を行うため。けれどそこに、その杖はあった。
 試しに振るえば驚くほど手に馴染む。珠粋に比べ重量はあったが、何よりその輝きを彼女は気に入った。
 翠玉の光沢に、蘭の花弁を思わせる曲線模様──彼女の名を体現したようなその造作が。





《Crystallist5・玉蘭編》


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