ふわりふわり目の前を飛んでいく白い綿毛が気になるのかじっと視線で追いかけそれに合わせぴくりと耳が震える。
姿は見えないが聞こえてくる高い声は小さな子供が近くに居ることを示していて…。
「すっかり春めいたな」
「ふわふわー、ろい!ふわふわなのっ」
「ああ、そうだな」
宙を舞っていた綿毛の塊を見つけ興奮したのかぶんぶんと小さなしっぽが揺れている。
花のうちは綺麗な黄色のそれはどうやらハボックのお気に召したらしい。
夏のひまわりを抱えた姿もたいそう可愛らしいだろうが、たんぽぽを握り締めた姿はなんと言うか壮絶だ。
金と黄色。その背景には晴れ渡った空。
にぱっと笑みを浮かべる姿は癒し意外の何者でもない。
今も右手に握り締められたたんぽぽがご機嫌なハボックの動きに合わせて上下に揺れている。
「ジャンも飛ばしてみるか?」
「う?飛ばせるの?」
手近にある綿帽子に手を伸ばしそっと茎を手折ってハボックの顔に近づけてやれば、興味深いのか視線を話さない様子に自然と口元が持ち上がる。
「息を吹きかけるんだ。蝋燭を消すときのように」
「ふーー」
こわごわと息を吹きかければ綿帽子はそれに合わせ綿毛を飛ばす。
ふわふわと宙に舞うそれにハボックの目が輝きを増し、息を吐き出すのも忘れじーっとその先を追いかける。
「ろい!飛んだのっ もっと!」
「ああ、分かった」
すっかり綿毛のなくなってしまったそれを地面に置き、新しい綿帽子を求めてを伸ばす。
こんなことで喜びを表すハボックが可愛くて仕方がない。そう、ハボックが可愛いのが悪いのだ。


休憩時間を大幅に過ぎ中尉に怒られるのはもう少し先の話。







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