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「さよなら」
 彼女はそう言って、俺に背を向けて歩き出す。
「待って!」
 そう言おうとしたのに、声が出ない。
 彼女の背中がみるみるうちに小さくなり、俺はただその場で泣き崩れた。

――雨の記憶

 ふと目を開けると、そこはいつもの自分の部屋だった。
「夢・・・・・・?」
 嫌な夢を見た。寝返りをうつと、カーテンが見える。そのカーテンの隙間から少しだけ外が見えた。
 時計の針は八時を指しているのに、やけに薄暗い。
 俺はベッドから起き上がり、カーテンを開けてみた。
「雨か」
 外は雨がしとしとと降っていた。

 こんな雨の日は、あの日のことを鮮明に思い出してしまう。
 俺は窓ガラスに額を当てた。ひんやりとしいて気持ちいい。
「夢にまで見るとはな・・・・・・」
 彼女に別れを告げられて一ヶ月。未だに忘れられない。女々しい奴だと自分でもよく分かってる。
 だって、俺はまだ彼女のことが好きなんだ。

 彼女が心変わりしたのを、俺は気付けなかった。自分のことばかり考えていた。
 もしあの時、彼女の気持ちに気づいていれば、何か変わっていたのだろうか?
「・・・・・・っ」
 涙が溢れてくる。
 どうしてこうなってしまったのだろう? どうしてもっと彼女の気持ちに気づいてやれなかったのだろう?

 あの日もこんな風に雨が降っていた。
「別れる? どういうことだよ」
 俺は彼女に告げられた別れの意味が分からなかった。
「もう・・・・・・あなたと一緒にはいられないのよ」
「どうして?」
 叫びにも似た声で問いかけると、彼女は申し訳なさそうに俯いた。
「他に・・・・・・好きな人ができたの」
「え・・・・・・?」
 俺はその言葉に凍りついた。何を言われたのか、よく分からない。
「だから、もう一緒にはいられない」
「それって・・・・・・もう俺には気持ちがないってこと?」
 そう訊ねると、彼女はゆっくりと首を縦に振った。
「ごめんね。さよなら」
 彼女がそう言うと、お気に入りの花柄の傘を差し、俺に背を向けて歩き出す。
「待って!」
 引き留めると、彼女は立ち止まったが、振り向かなかった。
「もう・・・・・・可能性はない?」
 女々しい質問をしたことは、自分でもよく分かってる。
「ごめん。もう無理だから」
 彼女は振り向きもせずにそう言うと、そのまま歩いて行ってしまった。
 俺はそれ以上彼女を引き留めることもできず、ただ雨の中に消えていく彼女を見守っていた。

 雨音がまだ耳に残っている。この音を聞く度に、胸が苦しくなる。
 あの頃はただ彼女の笑顔を見るのが嬉しかった。そんな日々が続いて行くものだと思っていた。
 当たり前のように思っていた楽しかった日々は、こんなにも呆気なく終わりを告げた。

 いつもまでもこのままじゃいけないことは、よく分かっている。でもどうすればいいのか、自分でもよく分からない。

 ふと途切れた雨音に気づき、窓の外を見やると、さっきまで降っていた雨はいつの間にか止んでいた。
 窓を開けると、湿った風が頬を撫でる。
 雨上がりの空を見上げると、厚くて重い灰色の雲の切れ間から、太陽の光が差し込んでいた。
 今はまだ胸が痛むけど、いつかはきっと、この空のように少しずつ晴れていくだろう。
 俺は新しい道を進まなきゃいけない。
 少しずつでいい。苦しくても、辛くても、一歩を踏み出そう。

 雨上がりの空に見つけた小さな虹を見て、俺はそう誓った。
設定の元ネタは自作詩【雨の記憶】より。
元々曲先行で書いた詩で、ボツになってしまったので、せめて小説にしてみました・・・。
ちなみに詩は【little circus】にて公開中です。



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