「アスラン! いつまで寝てるの!?」
 ばさっ と布団を剥ぎ取られて、窓から差し込む日差しに眩暈がした。
「あと、5分・・・」
「駄目! 母さん待ってるよ」
 その一言で、アスランは今自分がどこにいるかを思い出した。
 オーブだ。

 アスランにはスイッチがあるらしい。
 仕事の日は目覚ましより早く起きる。
 起きた瞬間から活動状態で、普通の顔をして朝食の支度をしたりする。
 それが休日になるとどうだ。
 バッテリーでも切れたかのように、起きなくなる。
 起きてもこのザマだ。
 寝ボケ顔、跳ねた髪、いさぎ悪く布団を取り戻そうとする手。
 これがオーブ軍プラント駐屯基地隊長かと思うと、脱隊したオーブ軍の未来が不安になる。
 まぁ、仕事はできる人なんだけれど。

「いま、なんじ・・・」
「9時半。お昼前には行くって母さんに言っちゃったから、そろそろ支度しないと」
「うん・・・」
 寝ぼけたアスランは、昨夜寝る前にベッドサイドに置いた煙草を手探りで探し、一本取り出して火をつける。
 普段は見せない姿だ。
「煙草、やめるんじゃなかったっけ?」
「ああ、これだけ・・・」
 これだけ と言いつつ、キラに隠れたところで吸い続けていることを、キラは知っている。
 休日の朝、仕事のストレスが溜まったとき、シた後・・・。
 時折アスランが纏っている匂いに、キラは気づいていた。
 あまり咎める気はないのだけど、一度辞めると言ったものを続けるのは、男らしくない気がする。
「アス、臭い」
「ごめん・・・」
 まだ寝ぼけているアスランの手から煙草を取り上げて、代わりに唇を啄ばんでやる。
「目、覚めた?」
「もう一回」
「調子に乗らない」
 ホテルに備え付けの灰皿に、ぎゅっと煙草を押し付けて火を消す。
 その灰皿が、先に汚れていることに気づき
「昨夜吸ったんだ」
「ああ、おまえが寝てから・・・」
 キラが眠ったのは、日付が変わってからだ。
 休暇を取ってオーブに帰ってきたのに、「ついでに」と仕事を押し付けられ、二人してそれぞれの基地に行った。
 シャトル移動のあと強行軍の仕事。
 なんで休暇なのに軍服持ち歩かなきゃなんないの と愚痴を零しながら上司(イザークだ)に持たされた仕事をこなした。
 アスランはアスランで、自軍の本部に顔を出し、あれやこれやと仕事を押し付けられたらしい。
 ホテルで合流したのは、午後22時。
 ありえない とぐったりしながら、それでも休暇という開放感から求め合って、最後にキラが時計を見たのが午前1時半。
 アスランはそのあと寝たことになるから、
「6時間以上ちゃんと寝ててなんでそんな寝ぼけるの。っていうか、煙草吸ってる暇あったら寝たら?」
 説教をしながらインスタントのコーヒーを差し出してやれば、
「いや、なんか興奮して」
 受け取りながら、アスランはそんなことを言う。
「興奮って、なに」
「昨日のキラ、積極的だったから」
 ばか! と、頭をひとつ小突けば、アスランは笑う。
「早く支度して。外でご飯食べよ。そのあとお土産買わないと」
「お土産ならプラントで買ってきただろ?」
「あそこに何人子供がいると思うの」
 キラの実家は今は孤児院で、カガリの息がかかっていることもあって多くの孤児を抱えている。
 ボランティアなどの手も借りているらしいが、キラの母はその子供たちの面倒に追われる毎日だ。
 それでも、定期的にメールや通信をしてきて、我が子とそのパートナーの心配もしてくれる。
 そのうち倒れるんじゃないか と、キラは心配しているのだ。
「今日は一日孤児院の手伝い! ほら、支度して!」
「休暇なのに・・・」
「明日デートすればいいじゃん」
 とりあえず、早いうちに顔を見せて安心させてやりたい。
 確かに昨日の今日で疲れてはいるが、子供は好きだ。一緒に遊ぶと、無邪気な心を思い出させてくれる。
 キラが、忘れかけているものを、思い出させてくれる。
「あ、サングラスやめてね。子供怖がるから」
「怖いか?」
「似合ってない」
 アスランの趣味って、なんかおかしいよね。
 言うと、アスランはむっとした顔をして洗面所に行ってしまった。
 ああ、機嫌損ねちゃった。
 これは今夜お仕置きされるな と、腹を括る。
 休暇で開放感を感じているのは、アスランだけではないのだ。
 キラだって、休日は開放的になって、スイッチが入る。
 甘えたい と思う。
 今日は、それをぐっと堪えて。
 日差しの強い中、海にでも行きたいなぁ と、思った。 
  



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