傷 *おまけ*





 放課後、いつものようにナルトが夕日の差し込む旧校舎の階段を上っていると、髪の長い昨日図書室で見た女が歩いてきた。しかし、その表情に昨日の華やかな笑顔は欠片もなく、怒りからか顔が真っ赤になっている。ナルトはとっさに道をあけ、その後ろ姿を唖然として見つめたが、今彼女が歩いてきた方向を確かめその先にある図書室へ急いだ。

 慌てた様子で図書室に飛び込んできたナルトに、サイがいつものように微笑みかける。だが、その左頬は夕焼けのせいではなく、真っ赤に腫れ上がっていた。

「どうしたんだよ、その顔」

「ああ、ちょっとね」

 明らかに手の形に頬を腫らしているサイにナルトが詰め寄るが、本人はいたって無頓着に笑っている。

「別にじゃねえじゃん。昨日の女がすげー顔して歩いてったぜ」

 お前、なんかしたんじゃねえの? 訝しげな視線を向けるナルトに、サイが腫れた頬に触れながら首を傾げた。

「なにもしてないよ。ただ彼女が僕の絵のモデルがしたいなんて言い出したから『ブスは描かない』って断っただけだよ」

 殴られた意味がわからない、という顔をするサイをナルトが呆れた顔で見下ろす。

「そりゃ殴られるってばよ」

 どおりで彼女が怒って帰ったわけだ。しかし、おかげで彼女はもうここへサイを訪ねて来ることはないだろう。

「気のない女にまでへらへら笑ってるから悪いんだよ」

 サイの隣に腰かけ、ちらりとサイへ意地の悪い視線を向けると、サイが肩を竦めて見せる。

「僕が笑ってた方が喜ぶくせに、女の子はよくわからないよ」

 でも、と言ってサイが絵を描く手を止めると、強引にナルトの腕を引き、その唇に口づけた。

「ナルトが他の女の子に笑いかけるな、っていうならもうやめるよ」

「・・・ばっかじゃねえの?誰もそんなこと言ってねぇってばよ!」

 嬉しそうな顔をしているサイの身体を突き放そうとするが、ナルトの両腕はサイの手で押さえられもぞもぞと身体を動かすことしか出来ない。耳元に寄せた口で、やきもちやき、と囁かれると、ナルトの背が飛び跳ねた。頬を赤く染めながらキッとサイを睨みつけたが、その視線は頬の腫れにいってしまう。

「とにかく、早く冷やせよ」

 綺麗な顔に怪我は似合わない、という言葉を、ナルトは言う寸前で留めた。

「本当にたいしたことないんだよ」

 ぶすっとした顔で自分の怪我を気にかけるナルトに、サイが安心させるようにやんわりとした口調で答える。いきなり引っ叩かれたときは流石に驚いたが、じりじりとした痛みもすでに感じないほどだった。それでもまだ納得しきれない表情のナルトは、訝しげに眉を顰めている。

「こんなのよりも昨日の傷の方が厄介なんだけど」

 意味ありげな含みを持つ言葉だったが、ナルトはストレートに言葉を理解して顔色を青くした。昨日の喧嘩でサイも怪我をしていたのだろうか。あまりにも心配そうな顔を見せるナルトに笑いかけながら、サイがナルトの前髪を撫でる。

「君のつけた爪跡が疼いて授業に身が入らないんだ」

 うっとりと昨日の夜のことを思い出しながらサイが言うと、一瞬ナルトはぽかんとした顔でサイを眺めていたが、すぐにその顔を真っ赤にして左手の拳を振り上げた。しかし、その手はサイに易々と止められ、身体ごと机の上に押し倒された。

「騙された!二度とお前の心配なんかしないかんな!」

「だって本当のことなんだからしょうがないじゃないか」

 じたばたと抵抗をみせるナルトを押さえ込みながら、サイが困ったような表情で、だが明らかに面白そうな口調で言う。事実、昨夜の情事の際にナルトがつけた爪跡が疼くたび、ナルトの甘い鳴き声や淫靡な表情が鮮明に思い出され、サイはどの授業も上の空になってしまう。

「ナルトも授業中、昨日のこと思い出した?」

「んなわけねえだろ!昨日のことなんて忘れたってばよ!」

 と言うよりは、昨日のごたごたのせいで疲れきっていたナルトは全ての授業を寝て過ごしていた。しかし、夢の中ではサイに抱きしめられ、身体のあちこちに綺麗な唇で触れられる感覚を思い出していた、とは口が裂けても言えない。

「本当に?でもここ、跡になるくらい強く吸ってあげたのに忘れちゃったの?」

 白い首筋に浮き上がる赤い跡を指差しながらサイが悪びれる様子もなく言うと、ばっとそこを手で覆い隠し、ナルトの頬の赤色が一段と増し、サイを睨む目がいっそう鋭くなる。

 そしてサイの右頬は左頬以上に赤く貼れあがることになった。







ありがとうございました!
【現在小説2+イラスト1】



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