拍手ありがとうございました!
↓【新選組:社会人編】の小噺です。
こちらは現パロ設定になっておりますので、その点ご理解のうえ良かったらお進みください♪
ここに出ている以前のお話は風花の方で『現パロCP編』の中に再録しています。
※拍手から下げたお話が風花に再録されるまでには多少時間がかかる事があります
【 CP斎藤編:エピソード278 ただ声が聴きたいだけ 】
『斎藤!』
『……新八』
土方に指示された駅を降りる斎藤を、永倉が車の外で待っていた。
走る車の中で斎藤が聞かされたのは、今彼女の身に起きているであろう事。
初めて聞く衝撃の大きさが、斎藤の目を瞠らせる。
「家まで来たのか?!」
「そうらしいぜ。ただ家の前で鉢合わせって事はなかったみてぇだな」
「その男はいつから――」
『乗ってくれ、千鶴ちゃんが大変な事になっちまった!』
『っ、千鶴が?!』
永倉も朝日奈から聞いた以上の事は分からない。
相手はいったい誰なのか。
どうして千鶴が狙われたのか。
先程駅で斎藤を待っている間、永倉のもとに千鶴を保護したという連絡が、原田の方から入ったらしい。
今向かっている病院で、千鶴はどんな状態なのか――。
「……っ」
思い出そうとする千鶴の笑顔が、先日の悲しみ溢れた表情に消されていく。
「それで……おまえの方はどうなんだ?」
探るような永倉の声音に、斎藤の顔が持ち上がる。
「どう、とは……?」
「だからよ、その……」
いつでも直球勝負の永倉が、乱暴に髪を掻きむしった。
「回りくどいのは苦手だ。斎藤、直球で訊いちまっていいか?」
「?ああ……」
「おまえ、あっちで浮気してんのか?」
「な……っ?!」
あまりに唐突な質問。
声の出ない斎藤の隣で、永倉は話を続けていく。
「この間、平助と千鶴ちゃんがおまえの自宅に押しかけただろ」
「ああ……」
押しかけたというほどではなかった。家に入る事なく去って行ったふたりの姿が、斎藤の脳裏に蘇る。
「あの時、俺も一緒に行ってたんだ」
「……あんたも?」
あの時は確か彼女と平助ふたりきりだったような。
「やっと車を停められる場所を見つけたと思ったら、平助のヤツ『予定変更、今日は撤収!』ってよ」
「……」
「ワケを聞こうにも『帰ったら話す』の一点張りで」
「…………」
「浮気して――」
「していない」
それまで黙りがちだったのが嘘のよう。強くはっきりとした声が、永倉の話をスパッと断ち切る。
「……だな」
斎藤がしていないというのだから、していない。
たとえ家の前に黒い車が張り込んでいようと、訪問を拒まれようと、下着のような恰好の女が現れようと――。
「向こうに着いたら、千鶴ちゃんにちゃんと説明してやってくれ」
「……ああ」
それにしても、彼女は今日までの間、一体幾つの悩みを自分の中に溜めこんでいたのか。
誰かの迷惑になってはいけない。
そう抱えてしまった彼女の悩みのひとつが自分の事だという事実が、斎藤の胸を軋ませる。
気が付くと、窓の外を流れる景色が、見覚えのあるものに変わっていた。
◇◆◇
「おまえさぁ、どれだけ周りを心配させたか分かってる?」
「……ごめんなさい」
検査の結果は異常なし。
それでも打った場所が場所だけに、念のため今夜一晩入院と告げられて、ひと晩だけかと確認した千鶴に、薫の雷が落とされた。
「あの、薫ちゃん、畑の方は――」
「俺の事じゃなくて。なぁ、下手したら平助だって怪我したり免停食らってたかもしれないんだぞ?」
「ご、ごめんなさい……」
事故そのものは、単なる運転ミスということで、山南が知り合いの警察に何とかしてもらっているという。
あの男に関しては、土方が然るべき人間を間に立てて、話を進めているという。
『大ごとにしたくない』という千鶴の希望を叶えるため、彼らはそれぞれ動いている。
「二度と顔合わせなくていいようにしてくれるらしいから」
「……うん」
「引っ越し、出来るだけ早くした方がいいって」
「え……あ、うん」
引っ越しの件については、今話すべき事柄ではなかった。
危険な目に遭ったばかりの妹に、上手に優しくしてやれない自分を、薫は胸の中で盛大に罵る。
「薫ちゃん、あの本当にごめんなさい」
「だから、謝るのは俺じゃないって」
「うん。皆さんにも、後でちゃんと謝る」
大したことがなくて、本当に良かった。
どう頑張ったところで言ってやれそうにない言葉を、薫は喉の奥へと追いやった。
◆
「おー、薫スゲー怒ってる……」
「だな。ま、兄貴としちゃ事前に相談なしってのも腹が立つんだろ」
「ああ見えて彼、シスコンぽいし」
廊下にまで漏れてくる薫の声に、平助達は声を潜めて笑い合う。
「平助君、あそこで止められたのはお手柄だって山南さんが言ってた」
「ヨッシャ!やっぱ見てくれる人はちゃんといる――」
「でも無茶しやがってって、土方さんちょっと怒ってたかも」
「マジで?!だって俺あの時はああするしかないって――」
「平助、土方さんに怒られる時は俺が一緒に行ってやるぜ」
「左之さん、頼む俺が気を付けて運転してたって土方さんに――」
「骨は拾ってやるから安心しろ」
「ちょ、だからなんでそうなるんだよ!」
「あ……来た」
永倉と斎藤が、小走りで廊下を駆けてきた。
「今、そこで松本先生に会ったんだけどよ、千鶴ちゃん大丈夫なんだって?」
「一応今夜ここで一泊して、明日は退院出来るって」
仲間たちの明るい顔が、無事を知らせる何よりの証拠。
吐いた息の大きさが、ここに来るまでのふたりの気持ちを表していた。
「斎藤君、久しぶり」
「元気そうだな」
「……ああ」
仲間の顔を眩しそうに見回していた斎藤の視線が、平助のそれとぶつかった。
「平助……」
『一君、どういうことだよ!』
うやむやな話にするには、まだ日が浅すぎる。
「俺らは後。一君、千鶴と話してきて?」
「わかった……すまない」
外の話し声を聞きつけたのか、薫が廊下に出てきた。
「薫、千鶴と話せる?」
「話せるけど……」
先程までいなかった永倉と斎藤に、薫は小さく頭を下げる。
「斎藤、行って話してこい」
原田の大きな手のひらが、斎藤の肩を前に押す。
「俺らは飯でも食いに行こうぜ」
「賛成!薫、今日俺の部屋に泊まってけば?」
「いいけど、俺明日の朝早いからな」
「斎藤君も、声……聞きたかったんじゃない?」
沖田は耳の近くで囁くと、仲間と共に歩き出した。
この壁の向こうに彼女がいる。
斎藤は扉に手をかけると、小さく息をひとつ吐いた。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
楽しんでいただけましたか?風花の作品ともども感想をお聞かせいただけると嬉しいです(*^▽^*)
※拍手お礼は、ただいまこのエピソード1話のみです(突発的な小噺などは全て風花の方にupします)
今回のサブタイトルは『恋したくなるお題』様からお借りしました
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