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御礼文季節物のSSです。

3月のテーマは『卒業』です。







まだ蕾が芽生えた桜の枝がそよそよと風に揺れた。
卒業証書を手に見慣れた教室に背を向けた。

今日、俺は卒業した。
希望通り第一希望の大学にも受かり、四月からは大学生になる。
それを期に家を出ることにした。

両親はまだ渋ってはいるけど、もう部屋も決まっている。


もう、子供じゃない。
誰かがひいたレールの上を走らされる人生は、今日で終わる。


自分の足で歩いていくんだ。



「三崎。写真撮ろうぜ」

「悪い。待ち合わせしてんだ」

「何だよ彼女かよ〜。三崎も隅に置けねぇな」

陽気なクラスメイトに囲まれて、校門を出る。
初春の陽だまりは緩くて、眩しくて、そっと頬を緩ませるとひらりと花びらが舞い上がる。

「…桜?」

まだ季節ではない花びらはいくつもいくつも俺に降りかかる。

「取り寄せたんだ。僕からの卒業のお祝いだよ……」

壁に凭れかかった彼は静かに笑んだ。
その掌からは無数の花びら。
亜麻色の髪が風に靡いて、俺は一歩近づいた。





「卒業、おめでとう」


はにかんだように笑って、彼は、花びらを空に放った。



突風が吹きぬけて、花びらが舞い上がる。
さながらそれは花吹雪のよう。




「ありがとう」



手を取って、俺は桜吹雪を抜けた。






今日、俺は卒業した。

選んだのは、大学進学と、一人暮らしと、一ノ瀬薫。


ささやかだけど、それが望んだもの全て。
これ以上は何もいらない。


だって。
幸せは彼が与えてくれるから。



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