拍手有難うございます!

感謝感謝です!

よかったらお目当てのジャンルや感想など、教えていただけると嬉しく思います!



◆一夜 (策瑜)◆ ※周瑜一人称です



風の匂いに包まれながら、川べりに佇むのは自分一人で。
長江を渡る風は、ただ暖かくて冷たかった。

『お前ならば、一夜の現実と千夜の幻のどっちがいいと思う?』
懐かしい問が、耳を掠める。
戦の合間の幕舎で、それは本当に冗談半分のたわいもない笑い話だった。
どうしてそのような会話になったのかもわからない。幾夜の戦いの合間の、ほんの一瞬の会話。
「あん?千夜と一夜なら多いほうがいいだろ?」
なんて笑った男の単純さを笑い飛ばせるほどに、当時はその時が永遠に続くのだと信じて疑いすらもしていなかったのだ。
それなのに。
今も耳元でささやかれているかのように鮮明にその言葉を思い出すというのに。

もしも今同じ言葉を問われたら。
私はきっと……。



踏みしめる大地がじゃりっと音を立てて耳元に響く。渡る風はあの頃とまったく変わらずに、たたずむ同じ景色に。
ただぽっかりとお前だけが消えていた。

いつもただ。
無くした後でしみじみと知るのだ。
大切なものの存在の意味を。
お前という名の存在の大きさを。

握り締めた手に知らず知らずのうちに力がこもる。
救いを求めるように見つめた水面は、ただ変わらずに悠々と流れていくだけだった。
誰に問えばいいのだろう。意味もなく息苦しさに眼を細める。
お前のいないこの世を。
一体どうして生きたらいいのだろうか。
川の水は戻らない。ただ一方方向にとうとうと流れ行くそれが、逆流することなどけしてない。
時もまた、同じだった。
零れ落ちた命は帰ることもなく、どれだけ祈って願って望んでも変わらず明日は今日になり昨日になっていく。過ぎたときは戻ることは二度とない。

ただ残酷にも流れていくときは、まるで大きな大きな布のようにごしごしと記憶を洗いさって行く。
思い起こせば一つ一つ。
まるで汚れを落とすかのように少しずつ大切な思いでは剥がれ落ちて行く。

背を合わせたぬくもりも。
見詰め合った視線の暖かさも。
何もかもが一つづつ。
消えてゆく。

どれだけ足掻いてみても。
指の隙間を零れ落ちて行くのだ。
お前との思い出が。

そうして。
あれだけ愛したお前の名を。
いつか忘れる日が来るのだろうか。

「伯…」
再び会う日など、来るわけないものを。
そんなことは心底知っていても。
それでも、心に消えないその名をいつも呼び続けるのだ。

もしも、一夜の現実と千夜の幻が選べるのなら。


千夜思いを馳せるより。
一夜だけでも一緒にいたい。

お前に会いたい。
話したい。

どうか。
もしも願いがかなうなら。
もしも奇跡というものがあるのなら。

一夜だけでいいから。
むしろ一瞬だけでもいいから。

ただ。
私は。
一目でいい。

ただ。

お前に会いたいのだと…。

帰らぬ風に、戻らぬ水に。ただそれだけをつぶやいた。


…end



拍手ありがとうございました^^

感想ご意見等あれば是非お願いします。



何か一言いただけるととても嬉しいです(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。