「たこ焼きが食いたい。」
「食いたいなぁ。」
「買ってよ、ヨンイル。」
「あほか、そんなもん俺の方が買って欲しいわ。」




特に用もなかったけれども、腹が減ったので学校帰りにふらりと寄ったのは夕方日暮れ時のスーパー。
おかんおかん、おばん、時々おじん。
タイムセールスがかかる時間もあって先程から自分たちの前の人通りは絶えず、それどころかスーパー
にはどんどん人がたまっていく一方だ。
二人で買ったポテトチップスなどとうの昔に唯のごみと化してしまった。早く家へ帰ればいいと言うだ
ろうがそうは行かない理由が自分たちにもある。そしてその理由は言いたくない。


「お兄ちゃん、たこ焼き買ってー。」
「すまんなぁ、兄ちゃんにはもう明日のジャンプ買う金しかないねん。」
「お兄ちゃんおなかすいたよー。」
「残念ながら、兄ちゃんの腹の虫なんかもう疲れきって鳴きもせんねん。むしろ俺に買ってくれや、ち
 っちゃい弟。」
「ぶっ殺す。」
「無理なこって。」


スーパーの自動ドアが忙しなく開閉を繰り返している。俺の腹の虫は忙しなく空腹を訴え続ける。
たこ焼きやの若い店長はにこにこと愛想のいい笑顔を浮かべて、時折落ちてくる髪をかきあげなが
らくるりくるりと丸い食べ物をひっくり返している。
あー、腹減った。
座り込んだ位置でぐったりと後ろに手を着き背中を反らしたらほのかに香るいい匂いにまたぐった
りとしてしまった。
ヨンイル、ここ俺達にとっちゃ生き地獄じゃね?
そう呟いたら隣でゴーグルつけた学ラン姿のヨンイルが苦笑した。
しゃあないな、と呟く声も聞こえた気がする。


「俺が出したるわ。今回だけやで、恩はいつか返せやー。」
のっそり立ち上がって遠ざかっていく背中をぼんやりと見送った後、しばらくしてほかほかと温かい
湯気をたたせたプラスチックの箱を持ってヨンイルは戻ってきた。
腹の音が一層でかくなった。


「あそこの兄ちゃんめっちゃいい人やで、『お、ようやく買うことにしたんだな、おまけしてやるよ。』
 って言うて2個もおまけしてくれた。おおきになー、兄ちゃん!」


ひらひらと人のいい顔で手をふるタオルを首に巻きつけた青年にヨンイルはにこにこと手を振り替えした。
時々吹く風にふわふわと巻き上がる青海苔と鰹節、ほかほか沸き立つ湯気とかおる温かな匂いに涙が出そ
うになったのは腹が空ききって死に掛けていた少年で、ロンは近年まれに見る程の満面の笑みでたこ焼き
に食らいついた。


「うめー!!!ヨンイルもうすっげぇ愛してる!」
「俺も愛しとるでー、から今度俺にコンビニのかりかり君奢ってや。」
「おー、それは約束できねぇけど愛してるぜ、おい、それ俺のたこ焼き。」


我先にと争いもぐもぐと頬張る少年二人に通り過ぎる人はくすくすと微笑ましそうに横見ていく。
しかし、そんな二人に穏やかな一時は長くは続かない。
寒いから、そして一つでも多く食べようと互いに寄り添った二人に忍び寄るのは黒い影。
ゆらりゆらりと魔の手は近づく。


突然ヨンイルの肩に激痛が走った。みしりみしりと骨がうなるのは気のせいじゃない。敵襲や!
と振り返れば褐色の肌の美しいブレザー姿の少年がにっこりと微笑んでいる。


「寄りすぎ、ヨンイル、ぶっ殺す。」


ぽーんと突き飛ばされてヨンイルが真横に転がり持っていたプラスチックの箱は浮き上がり、そ
して


「たこ焼きー!!!」


最後の一個はロンの伸ばした手、持った爪楊枝むなしく地面にぽとりと落ちた。
転げたヨンイルの悲しげな声が聞こえる。
お前も悲しいか、俺も悲しいよ。
そして二人の間でへらりと笑う少年を二人して同時に睨み付けた。


「遅刻してきたくせにふざけんなよ!!」
「はよ帰れんだんはお前のせいやのになめとんのか、レイジ!!!」


「あ、わりぃ。じゃあ帰ろっか、キーストアに頼まれた本も買えたし。」


「「ふざけんなっっ!!!!!」」




がやがやと聞こえる人の声。
がらがらと響くカートの音。
夕方、夕暮れ、茜色。
少年達の声が聞こえなくなるのはもうしばらくしてからのことだった。
三人ぶらぶらと並んで歩く姿が見えるのももう少し後・・・・。







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