こへ次


貴方とみる朝日は叫びたくなるほど美しい。


ついてこい、とまだ月の光しか見えないときに連れ出されて事務員にみつからないようにこっそり抜け出した。走って走って(何をそんなに急いでいたのか分からなかった)(ただそう、手を引いている七松先輩が走っていたからだ)たどり着いた裏々山で朝日が昇るのを見ていた。
あんまりにもきれいで、息を呑んだ。
自分が生きてきた世界とまるで違う世界に来たかのようだ。ほんとうに、きれい。そのきれいな世界で、この人の隣で新しい朝を迎えている。その特別な空間で吸った息が自分の肺を満たしていく。
「お前が卒業する時、また朝日を見においで。奪い上げてあげるから。迷わず来いよ、」
遅れたら、置いていくから。そういって七松先輩は小さく笑った。
その笑い声も途絶える。走り続けて上がった息も落ち着いて、静寂が朝を包む。
木々の呼吸の音が聞こえる。
こきゅう。その生きるために延々と繰り返されるものの音を聞いたとき、いまこんなにもきれいな朝日が特別なことではなくって、ただの日常の延長とでも言われているような気分になる。
夜が終わって朝が来る、ただそれだけのことだと。
「もしおれが間に合わなかったら、手ぶらで帰るんですか?七松小平太ともあろう方が。」
七松先輩が俺を見て驚いた顔をする。
ねぇ、と先輩に答えを促すように言って、おれは笑い出す。くすくすと。つられたようにゆっくり笑い出した七松先輩は、豪快な大きな笑い声で朝のその静寂を壊していく。木々の音が聞こえなくなる。
そうして今この空間がまた特別なものになる。
「確かにな。参った!」
だからその笑い声が絶えなければいいと思って、おれもまた大きな声で笑い続けた。




ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。