Footprints for one person


 ギップルの腕が腿の辺りに回されたかと思うと素足の裏からの感触が消えた。
 視界と共に身体が前方へと急激に傾く。驚きに僅かな呻きが零れた。
 パインは不安定な浮遊感に慌ててバランスを取ろうとしたが、咄嗟に手を付く場所が見つからずに手が宙を掻く。

「ちょ…ちょっと、おい!」

 肩に担ぎ上げられて声を上げたが、愉しそうな笑い声が返ってきただけだった。

「お姫様抱っこの方が良かった?」
「そうじゃない。莫迦!」

 脚をバタつかせると絡みついていた腕にグッと力が籠る。
「暴れるなって。一蓮托生…って知ってる?」

 確かに抱えられている状態なのだから、ギップルが転べば道連れにされるだろう。
 いつものことながら根本的なところから論点が食い違っている。

「あんたが降ろせば済むことだろ?」
「ヤダもーん」

 ギップルは面白い遊びを見つけた子供のような弾んだ声で答えて海岸を歩き出す。
 ダメだ。こんな時の彼はただの悪ガキで、怒ろうが脅そうがこちらの言うことなど耳も貸さない。
 こちらが照れくさく感じたり、気後れしてしまったりするようなことでも嬉々として実行するのだ。

 足を進める度に弾みでふらりふらりと身体が揺れる。
 ギップルの背中に片手を付くと、どうにか安定を保つことが出来た。
 彼の肩を軸に少し身体を起こして顔を上げてみれば、普段より視点が高いせいか視界に軽い違和感を覚える。

 燦々と降り注ぐ陽の光。
 碧い海と青い空。
 そして、砂浜に残る一対の足跡。

 彼の歩みの跡を縫い止めて、今も続く。

 所々細波に掻き消された砂浜の跡を見続けていると落ち着かない気分になってくる。
 寂しいのだろうか。それとも悲しいのか。いや、怒っているような気もする。
 明確な感情が捉えられなくてパインは戸惑いを覚えた。

 一人分だけ刻まれた痕に己の重みを見て、不意に気がつく。
 あぁ…そっか、と小さな苦笑が零れた。

「パイン?どうした?」

 潮風に紛れてしまいそうな声を拾ったのか、歩調が緩み、怪訝そうな声が投げかけられる。


「なあ、降ろして」

 こんな風に抱えられて高みから安穏と世界を見下ろしたい訳じゃない。
 いつだって、どこでだって、共に歩み世界を分かち合いたいのだ。

 一緒に、歩こう。





リハビリリハビリ。
Gratitude of applause39:20140228:sears





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