無慈悲な微笑み
はじめてひとを殺したときのことを、憶えている。 笑いながら政宗は言った。青年の笑みは無邪気ともいえて、小十郎はそれを黙って見つめる。 「無我夢中だった。言葉通りな。殺さなければ殺される、それが戦場だと身にしみた」 死体に刺さった刀を抜く。戦場に立つ姿は返り血にぬれていたが、きれいだ、と素直に思った。 撤収の準備に慌しい周囲の声が聞こえる中、政宗の声は戦場に凛として響いた。 「それから、感謝したぜ」 笑みは消えない。 「お前に背中を守ってもらう意味を、はじめて実感できたと思った」 背中を守られる。 政宗を殺そうとする者を殺すということ。 ひとを殺す、その覚悟。 「お前のことがわかったと思ったんだ。だから俺は」 振り向いて、その微笑を深める。 あどけないそれは、小十郎が守るべき、たったひとつ。 「うれしかった」 この戦場で唯一、うつくしいと思えるもの。 たいせつにしたいと、決意できるもの。 小十郎も笑った。そんな男に、政宗はふと、思いついたように問いかける。 「──お前は憶えてるか?はじめてひとを殺したときのことを」 その純粋な疑問に、小十郎はかぶりを振って答えた。 「……いいえ」 そうか、と政宗はうなずいて。 「───勝ち戦だ」 そう言って、誇り高く笑うまま、戦場を見渡した。 2007.5./basara 片倉小十郎×伊達政宗 ありがとうございました! (配布元/AnneDoll http://solfa.koiwazurai.com/ さま) |
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