「このような関係、終わりにしようと決め申した」
突然終わりを告げられた政宗は、まどろんでいた目をばちりと見開いた。
(なんだって?)
声にならなかったのは、啼きすぎて喉が枯れたせいだ。
上半身を起こして、幸村の顔を伺おうとしたが、腰が重くてそれすらままならない。
(Shit!)
求めたのは自分だが、それにしたって度が過ぎるってもんを知らないのかコイツはというほど、快楽をその身に与えられてしまった政宗は、一つ目だけで幸村を射る。
幸村はむかつくほど、晴れ晴れとした表情をしていた。
(その、きりっとした顔止めろ!)
ときめく自分にまた腹が立つ。
口の動きで怒るが、伝わりはしないだろう。
ほら。幸村はきりりとした顔を更にきりりとさせて、なぜか頷いた。
「お館様が申されたのだ。いつまで、貴殿と中途半端な関係を繋いでいるつもりだと」
政宗はむうっと唇を尖らせると、幸村から視線を逸らした。
(はいはい。どうせアンタはお館様命の男だよ。お館様の命ならなんだってするんだよな。俺と手を切れと言われたら切っちまうんだ。そんな軽い情で、アンタは俺を抱いてたってのか。Ha! 腹立つ。そんな男に体許た自分にも腹立つ!)
ばちばちと小さな稲妻を爆ぜさせながら、政宗は不機嫌を露わに鼻を鳴らした。
幸村は、起き上ることさえままならぬ政宗の正面に移動し、居ずまいを正した。
一つ目が、そんな幸村をちらりと見上げて、閉じた。
「政宗殿」
「ふん」
「それがしと、祝言を上げてくださらないだろうか」
「ふ……ん?」
(……なんだって?)
聞き間違いかと思い、目を開ける。
幸村は揺れる政宗の一つ目に気づいたのか、手を伸ばしてきた。
頬に触れられ、はりついていた髪を払われる。
次に何を言われるのか固唾を呑んだ政宗に、幸村はなんと、きりりとした相互を崩した。
「それがしは……貴殿を、あいしております」
「はぁっ?」
夢見心地な顔でされた愛の告白に、政宗は無理やり声を上げ、体を起こした。
ずきりと痛む腰に下半身。
鈍くも甘い痛みは睦みごとを思い出させ、顔が熱くなった。
幸村に告白をされたからでは、けして、ない!
「……アンタ、頭湧いてんのか……?」
恥ずかしい男だ。まっすぐにも程がある。
「限度ってものを、少し覚えた方がいいぞ?」
とても為になる忠告を与えてやっているというのに、幸村は分からないという顔をした。
(頼むから分かってくれ!)
その叫びもむなしく、幸村は夢見心地の顔のまま、溜め息をついた。
「貴殿を想う心に、終わりなどござらぬ。政宗殿には、煩わしいものかもしれませぬが……この身も、心も、貴殿に……」
「ばっかやろう! そういうのは、武田のおっさんに捧げとけ!」
手近に投げる物が何もなかったので、政宗は自分の眼帯をむしり取ると、幸村に向かって投げつけた。
ぺちんと、狙い通り幸村の額に当たった音を聞きながら、政宗は殻に閉じこもるべく頭から布団をかぶった。
(アンタの身も心も全部……欲しいに決まってんだろうが! こっちはアンタに惚れてんだよ! でも手に入るなんてそんなうまい話はどこにもありゃしないんだ! なのにアンタは……アンタは軽々しく~~っ!)
「馬鹿野郎!」
「ま、政宗殿……」
くぐもった叫びに、幸村はひっそりと肩を落とした。
その手には、政宗の眼帯が握りしめられている。
まさか投げつけられるとは思わなかったそれは、政宗の命のようなものだと幸村は思っている。
それが今、自分の手の中にあることが不思議で仕方なかった。
「……あいしております」
ぽつりと。だが、心の底から呟いた言葉に、へそを曲げた竜の芋虫はびくりと震えた。
(なにが……いけなかったのだろか)
幸村は分からぬと、溜め息をついた。
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