◇お茶会へ行こう!◇

「ちょっと京平はん、どないするつもりなん? もう始まってしまうやないの」
「そうじゃぞ、京平。わしらと一緒に行くと約束したではないか」
「ンな事言ったってなァ……」
 ふれあい通りの外れ、銀星ビルヂングに探偵事務所の看板を掲げる京平は、応接室でふたりの少女に詰め寄られ、大きな溜め息を吐いた。

 事の起こりは一週間前、仕事帰りにまるぎんのタイムセールから出て来た猫又の花咲杏と、座敷童子のゆきに出会い、お茶会に行こうと誘われたのだ。
 何でも、夢の神オネイロスの娘リオネが、森の女神レーギーナや春の女神プリマヴェーラに続いて、柊市長の家の庭でお茶会を開催するとかで、大々的に参加者を募集していたらしい。
 その時は軽い気持ちで承諾したのだが、運悪くこの三日間、タチの悪い依頼に当たってしまった所為で一睡もしておらず、事務所に帰って来たのも半刻ほど前という有り様なのだ。
「お茶会なんかより、正直、寝てぇんだが」
「なに言うてはるのん、折角タダでお茶できる、絶好のチャンスやないか」
「杏、それはちいとばかり違うと思うんじゃがのう?」
 本音だだ漏れな杏の言葉に冷静に突っ込むゆき。
「りおねが自分なりに考えて、辛い事件が続き傷ついている市民の為に開いてくれる催しじゃし、何より大勢のヒトが参加すると聞く。京平も行けばきっと楽しいと思うんじゃがのう」
 ゆき言われて、京平は黙り込んだ。
 その様子を見て、館の精がいつの間にか出したお茶を飲みながら、杏も頷く。
「ちィっと待ってろ」
 しばらく後、革張りのソファーに沈み込んで何事か考え込んでいた京平は、灰皿に煙草を捩じ込むと気だるげに立ち上がった。
「ちょっと、どこ行かはるん?」
「んァ? 風呂だよ、風呂。流石に薄汚れた格好じゃあ行けねぇだろうが」
 京平が、ネクタイを解きワイシャツの襟を摘まみながら笑うと、杏とゆきも満面の笑顔になった。
「ほな、うちも一緒に入ろか?」
「待て待て待て、何でそうなるッ?!」
「背中流したろ思てな。仕事、大変やったんやろ? お茶会に付き合うて貰うさかいに、お礼くらいさせてぇな」
「悪ィが、うら若い嬢ちゃんと風呂は遠慮しとく」
「嫌やわー、うちは京平はんより、よーっぽど長生きしてんねんで?」 
 杏はころころと鈴を転がすように笑うと、京平の背中をぺちぺちと叩いた。

 そのきっかり一時間半後、京平は待ちくたびれて痺れを切らせた杏とゆきに、支度もそこそこに柊邸へと引き摺られて行ったのであった。

――― End


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フリーノベル【リオネのお茶会】の裏話。
何故、京平たちが遅れて来たか、というネタでございます。

背後が杏ちゃんとゆきちゃんが書きたかったとか言わないんだからね(笑)

ゆきちゃん&杏ちゃん背後様からお子さんをお借りしました、有り難うございましたー!




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