男塾に入ってから三ヶ月ほど経った。毎日が地獄のシゴキだが、それにも慣れてきたと思う。今のところ、何とか正体もバレていない。女なのに男だと偽って入ったはいいが、これまでに何度となく正体がバレそうなことがあった。この調子だと先が思いやられる。
しかし部屋をムサい男部屋じゃなく、筆頭の桃と二人部屋にしてもらったのは助かった。大勢が部屋にいると着替えや入浴など誤魔化せないが、桃一人なら何とかなる。
何とかなるが……。 なぜ桃が同じ布団に?!
夜中、目を開けると目の前に桃の顔があった。すぐに飛び起きる。そして確かめてみるが、確かにここは私の布団であって、桃の布団を見るとそこはもぬけの空だ。
桃は寝相が悪い。それでこっちに来たのだろう。
仕方なく空いている桃の布団に移動しようとした。ここでは男として存在している私でも、さすがに男と同じ布団で寝るわけには行かない。
立ち上がろうとすると、腕をつかまれ、後ろに倒された。桃だ。
「起きてたのか?」
と聞いても、返ってくるのは規則正しい寝息だけだ。誰かと組み手している夢を見てたのだろうか。そう思いながらまた立ち上がろうとすると、今度は両肩を押さえつけられた。
「起きてるだろ?」
上に乗りかかっている桃の顔を見て言う。少しだけ目を開いていたからだ。しかし桃は何も答えず、そのまま崩れ込んできた。胸に桃の顔が当たる。
「く、苦しい。離せ……っていうか……」
やばい。いろんな意味で。
サラシを巻いているが胸に顔をうずめられたら女だとバレそうなものだ。それに、この体勢はやばい。もがいて逃れようとしても、強く押さえ込んでいるのか、無理だ。襲われてるのかこれは?
「桃、離れろ。起きろ!」
頭をゴツンとやると桃が寝ぼけ眼でこちらを見てきた。いい男が髪をくしゃくしゃにさせて目をとろん、とさせて。
「……好きだ」
桃はぽつりとつぶやいて体をきつく抱きしめてくる。
「な、何言ってるんだ桃? お、俺を男だと知ってのことか?」
しかし答えは無く、健康的ないびきが聞こえてきた。
なんだ、寝ぼけていたのか。どきどきして損した。
一気に体の力が抜ける。もう、どうとでもしてくれ、といった心境だ。あきらめて、そのまま寝ることに決定。
ふと、桃はどんな夢を見ていたのかと気になった。桃みたいな男が好きになる女とは、どんな人なんだろう。
しかし、そんなことを考えることのできる身分ではない。私は今、男なのだ。桃がどんな女を好きになろうと関係ない。
ただ言えることは、桃に憧れている女や桃が好きであろう女よりも、今の状況に置かれている私の方が数歩リードしている、ということだ。
そこまで考えてなぜか笑みがこぼれてきた。
終
男塾、桃夢でした。男装ヒロインです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。 冬里