貴重な一押し、ありがとうございます! 花言葉お題に挑戦。がんばります。(現在全4種です) 傾向:ギロ夏 苦手なお方は注意! 問われた言葉の意味を深く考えずに切り返して。 途端に落胆の色を浮かべて去る背中を見送った後で、あたしはふと首を傾げた。 だって、今更、何なの? 一体、何年間一緒にいると思ってるのかしら。 目の前に広げたレポート用紙に無意味な点を穿ちながら、彼の言葉を反芻してため息を吐いた。 「何なの? …ギロロのやつ」 口に出してみても、答えなんて返って来ない。 いらいら、いらいら。あたしの右手が忙しなく動く。さっきまで順調に進んでいたレポートの構成も内容もすっかり色褪せて、せっかく調子のよかった論文が台無しになっていく。 駄目なのよね、昔っから。ひとつのことが気になると他が手につかなくなっちゃう。 全く。ほんとうにもう! ギロロのせいなんだから! あたしがペンを置いて立ち上がると、まるでタイミングを合わせたかのように部屋のドアがノックされた。もしかしてギロロが戻ってきたのかとドアを開けたあたしの目に飛び込んできたのは、鮮やかな緑。 思わず険悪な顔でボケガエルを睨み付けると、珍しく慌てた表情の彼は騒々しく飛び跳ねて喚いた。 「な、夏美どのぉ! ギロロに何を言ったでありますかっ!?」 「は? 何でよ」 「まったくあの赤ダルマ、個人行動もいい加減にして欲しいでありますよ! 『探すな』なんて、子供じゃあるまいしっ」 いつもサボってる奴のセリフとは思えないわね、これ。さてはまた何か悪企みしてたな? 活きのいい頭を捕まえて吊るし上げ、にっこりと大きく笑みを作ってみせた。 「そうねぇ。探して来てあげましょうか、ケロロさん? そのかわり、変な作戦立ててたら容赦なしのフルボッコ覚悟しときなさいよ」 「ゲロォ…」 「見つけた」 街を一望できる小高い丘の上。満開のサルビアの中で見慣れた姿を見つけて、あたしはナビの案内を終了させた。背中の羽が意思に従ってゆるゆると降下していく。 あたしの声に、小さな背中が動く。振り返りもせず空を見上げて立つ姿は周りの花の色と同化しているようで、見失ってしまいそうなのが怖い。 「アンタ、何怒ってるの?」 「……怒ってなどいない」 嘘。すっごく不機嫌な声じゃない。 花を踏みつけないように気をつけながら彼の隣に腰を下ろすと、ふわりと風が吹き抜けていった。ざわりと揺れた葉が音を立て、ギロロの目がちらりとあたしに向かう。 「じゃあ拗ねてる、の?」 答えない。 また戻されてしまった目線を追いかけてあたしも街を見下ろしながら、そっと息をついた。さわさわと身体に当たる花がくすぐったい。 「ね…あたし、ギロロに訊かれたことの意味を考えたんだけど、どうしてアンタが怒ったのかわからない」 ― 『俺のことが好きか』、なんて。 「だって、当たり前じゃない。じゃなきゃ、あたし…」 「夏美。…秋のことは好きか?」 「え? …好きよ?」 「冬樹のことは?」 好きだ、と答えようとして、ようやく彼の言いたいことが掴めてきたように思えた。 あたしが声を出せずに俯くのを感じ取ったのか、ギロロがゆっくりこちらを向いた。 吊り上った目の黒く丸い部分に、あたしが映り込んであたしを見てる。 「ギロロ…?」 「俺は、」 何かを言いかけて、ふいと視線を外して。何度かモゴモゴと口の中で呟いてから、小さく咳払いをした。 赤い顔が更に赤く色を上げ、無意味に辺りの花を引きちぎっては放り投げている。 「…ギロロ。花が可哀相よ」 彼の手を離れた赤い花びら。拾い上げて顔を近づけると、蒂から零れた蜜で指が濡れた。 舌に乗せるとほんのり甘い。 「ねえ、ギロロ。この花、サルビアっていうのよ。…小さい頃ね、幼稚園の花壇に植えてあるサルビアを、友達と全滅させちゃったことがあるんだ」 ひとつ、ふたつ。 指を濡らす雫の量は増えて、手のひらに伝うほどになっていく。 それを口に含み、目を逸らしたままの彼を引き寄せ…僅かに牙の覗く唇に、そうっとキスをした。 「な、つ…!?」 「ね、甘いでしょ?」 照れ笑いで誤魔化すあたしを真ん丸にした目で見上げ、ギロロはふと笑う。離れた唇がもう一度触れ、熱い舌があたしの舌を絡め取って痛いほどに吸い上げられて。 どれだけそうしていたんだろう。ぼうっとしたまま花の上に横たえられたところで我に返った。 「ギロロ…やっぱり拗ねてたの?」 「…そ、そういうわけでは…」 「好きよ、ギロロ」 あたしの言葉に、ギロロの表情が固まる。でもあたしは気にせずに言葉を続けた。 「アンタの『好き』は、特別な好きなの。マ、ママや冬樹と、同じ『好き』なわけ、ないでしょ?」 「夏美…」 「えっと、だから、そのぅ…」 「愛してる」 え? 聞き返す前に、降りてきた唇が、瞳が、あたしの視界を奪う。そのまま深くキスされて、僅かな甘さに舌が痺れていく。 「…そう言って、欲しかった」 俺もまだまだガキと変わらんな、と低い声が耳を擽って。 花の蜜より甘いそれに思わず身体を震わせると、小さな手のひらがあたしの髪をなぞって抱きしめた。 その声は、反則よ…。 ぼんやりと熱の篭りだす身体で彼の背中に縋って息を詰め、あたしは甘い甘い声にうっとりと目を閉じて、柔らかな軍帽を持ち上げると彼の耳元へ囁いた。 「愛してる」 サルビア 『家族愛』 |
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