拍手、ありがとうございましたv
以下、お礼のSSです。(お礼は現在3種)
フユミさんがいただいたものをテーマにアスキラを書く企画。
紅茶とシュークリーム。
「あー!!もうなにこのバカソフト!!」
キラは、もう頭を掻きむしりそうな勢いで叫んだ。
昨日の夕方から仮眠を2時間挟んで朝まで向き合い続けても、まだ終わらない。リストにメモしたものを1個1個潰していっても、まだ消えない。それだというのにトラブル続きで気が狂いそうだ。
というのも、今日は大学の卒業論文の提出日だった。
あと10時間で完成させなければ、「5ヵ年計画」というやつだ。でも終わる気がしない。データの分析も考察も終わったが、フリーズしたり学内の情報システムが落ちたりと思わぬ妨害ばかりで、今も使っている統計ソフトの図表のエディタが上手く動いてくれない。ほんとにヤバイ。
「5ヵ年て!!大学院も受かってるのに5ヵ年なんて!!」
ありえない!無理!!とかブツブツ言っていると、後ろからツッコミが入った。
「どうでもいいですけど、寝袋と風呂セット、床に転がさないでくださいよ」
呆れた様子でそう言って、風呂桶と洗顔料を拾うのは1つ学年が下のシン。
「来年はシンくんも同じ目に遭うんだよ!」
「とりあえずアンタのこと見て学びました。俺はちゃんと計画的にやります」
「僕もそう思ったんだよ!去年は!!」
キラは一昨日もその前も学校に泊まった。実験室に、本当なら心電図やら脳波やら血圧やらといった生理的指標を測定するための浴槽があるので(でも一体、それって何の実験だろう?なんで入浴中のそんなもの測る必要があるんだろう?)、それを使って入浴した。仮眠は床にダンボールを敷いた上で寝袋を使った。もしも隣りの医療系の学部まで行けば看護や介護の模擬実習に使うベッドだの畳だのもあるからちゃんと寝られたんだろうけれど、行く手間が惜しいので我慢した。なんせ食事の時間さえ省いているくらいなのだから。
「シンちゃ~ん。お願いがあるんだけど」
「嫌です。出来ません」
内容を聞く前に断るなんて、酷い後輩だ。でも無視して頼んだ。
「生協行って僕のご飯、買ってきて?」
「あんた、人の話聞きましょうよ。嫌ですよ。俺これから集中講義ですもん」
ばっさり言い捨てて、シンは本当に授業に行ってしまった。
キラはちょっと寂しい気持ちになった。
なんせ昨日の昼から何も食べていない。寝不足と空腹が相まって、胃が重い。
生協行ってこようかな。でも面倒くさいな。時間、もったいないな。ていうか、卒論ほんとに終わるかな?・・・・こわくなってきた。
だけど、そんな不安の真っ最中にもお腹が鳴って、こらえるように身をかがめる。空腹には何も勝てないみたいだ。
一人で恥ずかしくなりながら、誰も聞いてないだろうなぁ、と周囲を見渡すと、研究室の端っこの席にいつの間にやら来ていたアスラン・ザラがいて目が合った。
博士後期課程1年、だけど今年度は休学していたので1度も話したことはない。噂では犯罪心理学とか専攻していて、科捜研に就職して、在職しながらの大学院生らしい。犯罪の発生条件とかそういうのを研究しているとかなんとか。
手にコンビニの袋を提げていた。
目が合ったままになっていると、盛大にお腹が鳴った。キラは今度こそはっきりと恥ずかしくなって顔を赤くしたが、彼のほうは自分の持った袋を見てから遠慮がちに尋ねた。
「・・・・・えっと、・・・・これ、食べる?」
「え、でもさすがにそれは」
遠慮したが、アスランはわざわざキラに手の届く向かいの机のところまで歩いてきてくれた。
「いいよ。どうせ間食だし」
「じゃあお金払いますっ・・・・って、そうだった。下ろさないとないんだった・・・」
アスランは笑って、袋を差し出した。
「卒論、出してからでいいから」
受け取った袋の中には、シュークリームとペットボトルの紅茶。
意外だ。甘いもの、好きじゃなさそうな顔してるのに。
「・・・・・じゃあ、頂きます。」
この人が自分の席に戻るのも待てずに、包装を破ってキラはシュークリームを口に運んだ。
柔らかい皮を噛みしめる食感と、バニラビーンズの香りとカスタードの甘さがじんわり口の中に広がる。
あぁ、もう泣くかも知れない。
「・・・!!おいしいっ」
そのシュークリームの味と言ったら、なんかもう今までで食べてきた食べ物の中で1番おいしいんじゃないかと思うくらいおいしかった。「ゴゾウロップに染み渡る」?難しい漢字は知らないしシュークリームが染み渡るとかありえるのか知らないけど、なんかそんな感覚。たかだがコンビニの100円の菓子なのに、行き倒れの砂漠で拾った食料みたいだ。何にも言わずに、一口一口惜しみながら食べきって紅茶も飲んだらこっちも嘘みたいにおいしかった。
そのあまりの喜びようにアスランは驚いた顔をしていたけれど、食べ終えたキラが「ありがとうございます!」と言うと吹き出すように表情を崩して笑った。
「シュークリームにここまで喜ぶ奴、初めて見たよ」
「僕、昨日の昼から何も食べてないから」
すると、それは大変だったな、と、アスランは苦い表情をした。
博士課程まで行った人だから、卒論なんかはさぞかし計画的に、少なくとも〆切当日に飢えて死にそうになってるなんてことはなかったんだろうとキラは思った。
「でも、あと少しなんだろう?」
「たぶん、どうにか・・・・・って、わぁ!こんな時間!!」
視界に入った時計の針を見て驚愕した。まずい、話し込んでる場合じゃなかった。
お礼を言って席に座りなおして作業を再開すると、優しい声を投げかけられた。
「がんばって」
キラは、エディタで図表をいじくりまわしながら、思考の隅で、アスランはいい人だなぁと思った。
それにこの自分の状況を馬鹿にされるかと思ったから、少し嬉しかった。
その後、キラは論文のことで頭がいっぱいでアスランのことなんかすっかり忘れていたけれど、今、思えばこの時に始まっていたのかも知れない。
シュークリームみたいに甘くて、紅茶みたいに少し苦い恋が。
コメント。
2009年2月のIMPACTの時に差し入れて頂いたシュークリームと午後の紅茶が、緊張と興奮で空腹すぎたフユミさんには死ぬかと思う程おいしかったので感謝をこめて書きました。
さすがにキラが種イベントでサークル参加してる話はどうかと思ったので(爆)、同様に興奮と緊張と(恐怖と)で空腹だった自分の卒論の時のことを状況だけ実話で書きました。
もしかしたらシリーズ化するかも知れない。心理系大学生のアスキラ。(笑)いや、たぶん続かな(以下ry