昼休み三景
ハンバーガーとダブルバーガーとチーズバーガーとコーラとシェイクとドーナツとバニラアイスクリームとストロベリーアイスクリームを、今日も今日とて見事に完食したアルフレッドが棒付きキャンディーを舐めはじめるのを見て、メープルドーナツを手にもったマシューはあきれ気味に、「君って本当にせっかちだね」と言った。ぽかんと青い空が頭上に広がる屋上、まだ昼休みは始まったばかりだ。せっかく50分もある昼休み、だというのにこんなにはやくランチを終えてしまって、残りの時間を目の前の兄弟はいったいどうすごすのだろう。
「君は相変わらず食べるのがおそいね!その調子じゃあ君がそのドーナツを食べ終わる前に、アイスがとけちゃうよ」
アルが、マシューの分のアイスを指して言う。あ、じゃあ溶ける前に俺が食べてあげようか。アルの手がアイスに伸びかけたのを見て、マシューはアイスをとっさに自分の後ろに隠した。
「あげないよ!ったく君ってば油断も隙もありゃしない」
僕のアイスなんだからね!精一杯睨みつけると、彼はハハハハと笑って、冗談だよ、と言った。本当に冗談かどうか、かなりあやしい。
尚も睨み付けるマシューを余所に、アルは笑いながら立ち上がって、すぐそばの転落防止用の白い柵に寄り掛かった。真っ青な空を見上げて、良い天気だな!という。彼はしばらく空を見つめ、それから視線を下にやった。屋上からは、向かいに立つ校舎の中が良く見えるのだ。校舎の中で思い思いにすごす生徒の様子を、特に面白くもなさそうに見つめるアルの舌の動き(やはりせわしない)にあわせて、キャンディーの棒の部分が、アルの口先で単調に上下にゆれた。そのさまを見詰めながら、マシューはのんびりとひとつめのドーナツを食べ終える。
しばらくしてアルのキャンディーの棒の動きが止まり、彼の目が見開かれた。
「どうかしたのかい?」
2個目のドーナツを食べ始めたマシューがたずねると、アルは眼下の校舎の中、そのある一点をみつめながら、「まーたやってるよ」と言う。誰が、何を?マシューはたずねようとしたが、その前に、聞き覚えのある怒鳴り声が、なんと隣の校舎からこちらまで聞こえてきた。これは間違いない、あのふたりだ。何を言っているのかまではわからないが、互いに罵詈雑言の限りを尽くそうとしているのはよくわかる。怒鳴り声についで、何の音だか想像もできない(あるいはしたくない)ピシャン、ガラガラドスン、バキン、ゴキゴキ、というような音もする。
「・・・相変わらずすごいね」
マシューが、殆ど感嘆の意を込めて口にした呟きに、アルは
「こりないおっさんたちだな、まったく!」
やたらと快活にそう言って、キャンディーをがりりと噛んだ。
(ある双子の証言)
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