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幼い日、未開を想像して胸を躍らせていたことが鮮明によみがえる。
初めてフヒトの漂流録を読んだとき、諸兄の胸にはそのどきどきが去来して、
居ても立ってもいられなくなったことを覚えている。
事細かに、しかし興を削がない程度に描写された風景。
見たこともない部族、初めて聞く鳥の声、新種の草花の香。
突然現れた猛獣との睨みあいに背筋を緊張が走り、
違う星が上る空に新しい星座の線を引く。
そんなフヒトの未開での一挙一動が、自分の身にも起こっているような錯覚。
こんな漂流録を書くことは自分にはできないと漂流作家を諦めても、
その感覚を味わい続けたくて編集になった自分がフヒトの担当になった。
あの日の感動が目の前で、本当に目の前で繰り広げられる。
そんな経験から二月。あがってきた原稿に校正入れの段階で。
諸兄はため息をついた。
「主語と述語があって無い
 スペル間違ってる
 方言と標準語混ざってる
 この言葉意味違う
 無駄な改行多い
 そのくせ文が長すぎて読みづらい
 一緒に行った俺ですら理解に苦しむってどういう表現ですか」
原稿は真っ赤。漂流作家として尊敬はしてる。してるんだが。
「あんた今まで何本漂流録書いてるんだ、これ癖とかそんなレベルじゃないだろ…!」
息を切らしながら突っ込めば、フヒトはへらへら笑って。
「でもま、面白かっただろ?」
「そ う い う も ん だ い じゃ な い」
安っぽい金色の、その頭をはたきたい。諸兄は眉間を押さえた。
「まぁとにかく、そんなもんちゃっちゃと終わらせて」
フヒトがにやりと笑うのが目の端に映る。
「早く次の漂流、行きたいんだけど」
あぁ、なんて魅惑的な。
誘惑に息をつき、諸兄は顔を上げる。
「なら直せ。今すぐ。完璧に」

人気作家のお世話も楽じゃない。



尊敬する先生の論文校正した記念←
敢えて弟子と同じネタにしてみた。
いまだにフヒトに対する諸兄の口調がつかめない。







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