たくさんのモノをもらった
父から、母から、友から―――――そして彼から
Please, look at me. ?
「そんなに私とパパって似ているの?」
「……まさか。エリシアがあいつと似てなくて良かったなといつも言っていたんだよ」
全く予想していなかったらしい質問に驚きを見せたものの、本気で思っているらしくその声に少し熱が入っていたのが妙におかしかった。
正直、自分でもそう思う。
顔は母親譲りだと父を知っている人は皆言うし、写真の向こうで笑っている父を見ても到底自分と似ているとは思えない。ただ……綺麗な翡翠色の瞳だけは紛れもなく父親譲りだ。
「ふーん。そっ……か」
「?どうしたんだい?」
「うんうん。なんでもないの。なんでも……」
「エリシア?」
質問の真意を見出せず少々困惑気味のロイを横目にエリシアは思わず失笑した。
もう40も過ぎる男がするには可愛らしすぎる顔だ。
「ロイ。私は幸せモノだと思わない?ママは女手一つで私を必死に育ててくれているし、パパのお仕事の人もたまに様子を見に来てくれる。そして何より……ロイが家に来てくれる。もっとも今じゃ、忙しいみたいだからなかなか会えないけどね」
「すまないね。あれから随分地位も上がったから」
外を出歩くのにも護衛をつけろってうるさくて。
それって、リザお姉ちゃんでしょ。
ああ。一人になる時間がなかなか取れないよ。
ロイはみんなに愛されているもんね。
エリシア。
ふふふ。
軽口のやり取りをしていたはずのエリシアは突然瞳を伏せ俯いてしまった。そのためロイからはエリシアの表情を伺うことが出来なくなった。
しばらくの間沈黙が部屋を満たしていたが再びエリシアから口を開いた。だが先ほどまでとは明らかに声の調子が落ちていた。
「なのに……どうしてだろうね。満足しているはずなのに幸せなはずなのに、どうしても……たった一つの願いが叶わないことが辛い」
「エリシア」
顔をあげたエリシアはどこか悲痛な表情をしていた。
ロイはそっと息を呑んでエリシアの名前を呼ぶ。
少しでもその願いが叶うようにと。
少しでもその願いに手が届くようにと。
「ねえ、ロイ。いつになったら私は”マース・ヒューズの娘”の代名詞がロイの中から消えるの?いつになったら唯の”エリシア・ヒューズ”として見てくれるの?」
幼心にもいつも真っ直ぐに伸ばされた背が綺麗だと思った。
低めのテノールの声で自分の名前を呼ばれるのが好きだった。
どこまでも深く濃い漆黒の瞳に自分が映されるのがくすぐったかった。
軍人にしては華奢で、それでも父なんかり強くて、そのくせ誰よりも優しくて―――己が奪った命に人知れず涙をこぼしていた。
泣かないでなんて言ったらきっと泣いていないと言っていつも通り笑ってくれるのだろう。少し陰のあるあの笑顔で――――――
でも……それもこれもすべて”マース・ヒューズの娘”だから。
「な、何を言っているんだい?君はあいつの娘だろう?だったら―――――」
「違う!!私が言いたいのは……私を、私を見るたびにロイはパパを私に重ねているでしょう?私を見ているようで私を見ていない」
縋るよう声で……感情のままに叫んでいた。
醜い。こんな感情をロイに言うつもりなんてなかったのに。
分かっていたはずだ。
“マース・ヒューズ”の名前なんかに勝てるはずはないんだと。
それでもどこか、心の端で思っていたのだ。きっと否定してくれると……。
だがロイは否定も肯定もせず顔から色が抜け落ちたようにただエリシアを見つめるだけだった。
「もう、パパが死んでから10年以上経つのにロイは全然前に進もうとしない。そんなにロイにとってパパは特別なの?大事なの?忘れられないの?」
いままでずっと思っていたことを吐露すると体が急に軽くなった。
そんなに自分の中で積もりに積もっていたのかと、へんに冷静な自分がいる。
ねえ……本当に望むものなんてもう何もないの
だから―――
お願いだから―――……
「お願いだから私を見て」
わずかに震える声音で告げた。
たった一つの願いを―――――
|
|