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以下、お礼ssです。
(現在DQ4のssが三種ランダムで出ます)







* 絶対的な信頼 *


城を出るまでは知らなかったことは、たくさんある。
暗闇に圧力がある、ということも。わたしは今日初めて知った。

――――怪物なんて、わたしが退治してあげるわ!

そう、言ったはいいけれど。
狭い籠に三人すし詰めになって揺られていると、今更のように怯えが忍び寄ってくる。
自分が「怯えて」いるだなんて、認めるのはものすごく苦痛だけれど。
身体は嘘をつかない。さっきから、小さな震えが止まらないのだ。
歯がみしたいほど情けないことに。
身体が触れるほどすぐ側にブライやクリフトがいなければ、自分で自分をひっぱたいていただろう。

得体が知れない、というのがイヤだ。
テンペの村を恐怖で支配するおぞましい怪物。その姿を見て、生きて帰った者はいない。
どんなに強い相手だって、陽の光の下、正々堂々とかかってこられたならそれほど怖くはないのだ。
正体が知れないということは、それだけで人の恐怖をかき立てる。
……どうやら、このわたしも。例外ではなかったようだ。
怖いものなんて、無いと思っていた。
お城の外で、広い世界で、自分の力を試したくて仕方がなかった。
「姫」ではないわたし。その力が、いったいどれほど通用するのか――――。
……なんて、世間知らずだったことか。
それでも、泣き言を言って引き返すくらいなら、今すぐこの場で死んだ方がましだ。

カタカタと小刻みに震える手を、もう片方の手でぎゅっと押さえつけ叱咤する。
自分の手なのだ。いうことを聞かせられないはずはない。
ブライにもクリフトにも気づかれたくないの。だから、早く。
止まりなさい。怖くなんか無い。わたしはは平気。わたしは、大丈夫なんだから。
平然と――――その実、必死に――――言い聞かせる。
その時。

ふわりと、暖かなぬくもりが震える手に重ねられた。

「大丈夫ですよ」

いつもと同じ、いっそのんきにすら聞こえる声で。
「大丈夫です。私たちは、負けません」
どこにそんな度胸を隠し持っていたのか。
弱虫だと思ってばかりいた昔なじみの神官は、小声で、しかし自信たっぷりにそう言ってのけた。

「負けるはずはありません。姫さまは勝って、そしてテンペの方々には安らぎが戻ります」
妙に確信に満ちた口調。まるで、神託を授ける司祭さまのように。
――――いや、実際彼は神官なのだけれど。
「神さまが、ついててくれるから?」
少々複雑な気持ちになって聞き返す。
これから頑張るのはわたしなのに、手柄を神さまに持って行かれるのは面白くない。
そりゃあ、ご加護があるのにこしたことはないけれど、怪物は自分の手で倒したいのだ。
「もちろん、神さまは正しき行いを見ていらっしゃいます。ですが……」
少し驚いたような声が暗闇に響き、そして重ねられた手にほんの少し力がこもった。
「姫さまがお強いことを、私は知っていますから」

「……もちろん、大丈夫に決まってるじゃない」
そうよ、負けるはずはない。わたしは強い。いずれ、誰より強くなる。
得体の知れない怪物だろうと、恐ろしく強い魔物だろうと、わたしはただ戦うだけ。
自分の力を試すために。肩書きが無くても、何かができることを示すために。
そして何より、間に合わなかった、救えなかった、たくさんの娘さんたちのために。
――――花の盛りの乙女の命。どれほど無念だっただろう。
わたしと、そんなに変わらない年だったはずだ。
人生はまだまだこれからで、広い世界とたくさんの幸せが彼女たちを待っていたに違いないのに。
それを無惨に散らすだなんて。絶対に絶対に許さない。
恐怖に追いやられていた憤りとやるせなさが、ゆっくりと勇気へ変わっていく。

「はい、姫さまは負けません」
嬉しそうにクリフトは笑い、同時に籠の振動がぴたりと止まった。どうやら、目的地に着いたらしい。
魔法だの霊力だのがからきしダメなわたしにも分かるほどの、邪悪な気配。
籠を運んできた男たちがあわてて立ち去る足音を背景に、緊張が当たりを支配していく。
ブライが杖を握る気配がして、クリフトの手も剣を探る。
そっと離された手の震えは、もうとっくに止まっていた。
――――わたしも、拳を握りしめる。そう、わたしは大丈夫。

覚悟しなさい、怪物たち。サントハイムのアリーナがお相手するわ。
籠から躍り出るその刹那、かばうように前へと出る若草色をした神官服の背中。
……そうね、ほんのちょっぴりだけ、感謝してあげてもいいわ。


ありがとう。わたしを、信じてくれたこと。


お題はこちらからお借りしました→リライト様 (「忠犬5題」より)







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