二萬打御礼拍手①「あ」



 練習室は予約制であって、限られた時間内で集中して練習が出来ることが何より魅力的である。音楽科があるこの学校ではあらゆる場所で演奏が聞こえるわけで、他の人の演奏が気になるということもあるし、音楽科の象徴である白の中に普通科である自分の黒が悪目立ちしそうで気が引けるのだ。
 もちろん毎度予約が出来るわけもなく、だからこそ貴重で真剣に取り組みたいのだが。



「…柚木先輩、集中したいんですけど」

「俺が気になるの?」

「当たり前です。視線が刺すように痛いのは気のせいでしょうか」

「それはお前の気のせい。それに、集中力が足りないのが原因じゃないかな」



 ねえ、日野さん。にこりと微笑むその顔が憎たらしい。しかし何も言い返せない自分の惨めさにがっくりと肩を落とした。



(とは言われたものの)



 やっぱり気になる。もはや出て行くつもりはないようみたいだし、せめて本でも読んでいてくれたなら。ピアノの椅子に腰を下ろしてこちらを見遣る意図が全く理解出来ない。



「柚木先輩、練習しないんですか?」

「家でも出来るからね、俺は」

「…そうでしたね」



 実りのある練習にならなそうだと落胆する気持ちを切り換えようと、チューニング後から待ちぼうけをくらっていたヴァイオリンを構える。
 確かに先輩の言う通りだ。たかが一人相手に集中出来なくて多人数のお客相手のコンサートが迎えることが出来るものか。
 よし。ぐっと弓を握りしめて、もう間もなく迎えるコンサートのため頑張ろうと意気込んだ。



「…なあ、香穂子」

「何ですか?」

「今度の日曜、空けとけよ」

「はい?」



 急に予定を決めてしまうのはいつものことだけれど、今回もまあ突然ですね、先輩。



「じゃあな」

「え、先輩!」



「ああ、そうそう。この後予約したの俺だから使っていいよ」



(日 曜 に 何 を す る ん で す か ?)
 日曜の練習分ですか、先輩。





ひどいオチ。
ニ萬打御礼①あ→「ああ、そうそう。」



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