拍手用SS vol.1 2008/09/21

◆◆レミリアの思考を嗜める暴走メイド長を嗜めるレミリア◆◆






ゴンゴン…


重たい扉を叩く。
扉の材質は木ではなく鋼鉄。
飾り気も無く、綺麗に磨かれているわけでもない。

ただ、外界との遮断という目的のために特化された扉。
『扉』という概念においては正しい。


「――――」


中から返ってくる言葉、否…音。
部屋の中の声が音としか認定できないほどの隔離能力。
それは扉だけではなく、壁もそうだということを安易に想像させる。
そう、この扉の向こうは、この世界から隔離、排除された空間なのだ。


「入るわよ」


その部屋は館の奥に。
その部屋の中を知っていない限り近づきはしない。
近づくとすればよほどの研究熱心か愚かな欲に急かされたか。
この部屋はそれほどの『辺境』に位置づけする。

館の主、レミリア・スカーレットはよくこの部屋に訪れる。
中を、中にいる少女を、妹…フランドール・スカーレットを『確認』する為に。


「フラン?」

「お姉様!」


目が合う。
部屋の主、フランドールは床に座り込み、人形と戯れていた。
それはパチュリーに頼んで友人の人形師に作ってもらった『本当』の人形だ。
フランドールに与えた人形は今月に入り2体目。
以前、小悪魔に調達させた人形はダメだった。

フランドールの興味をそそるに十分ではあったが脆すぎた。
『出来』が悪かったのか。
それは5日と経たずおもちゃとしての機能を亡くしてしまった。
フランドールに与える人形というのは『オモチャ』つまりは玩具である。
彼女の意のままになり、彼女の些細な、だけど乾く事のない欲求心を満たし続ける事が目的である。
なまじ、『活きがいい』のも考えようだ。


「こんどのソレは気に入ったかしら?」


フランドールの手元を見て囁く。
部屋は完全な密室なので些細な声で十分響き渡る。


「うんっ。とても可愛くて好き」

「そう、それは良かったわ。でも今度は簡単に壊してはダメよ。
 前のと違うとは言え片づける咲夜の苦労も考えて」

「はぁーい」


フランドールは少し頬を膨らませつつも嬉しそうに返事をした。
それはレミリアが本気で怒っているわけではない事を知っていたから。


「お姉様」

「何?」

「最近よくここに来るけど…どうしたの?」


少しの間。
妹にとっては素朴な、表裏の無い質問。
だけど、その投げかけにレミリアの動きが止まる。


「なんとなく、よ」

「なんとなく?」

「そ、ただなんとなく…フランに会いたくなっただけ」

「そっか、へへへ」


屈託のない笑顔。
その会話が最後。時間にして僅か数分。
レミリアは、本当に妹の顔を見に来ただけなのだ。


「じゃあね」

「おやすみなさいーお姉様」

「おやすみ、フラン」


私は元気だよ、お姉様。

ゴン……
重たい扉を閉める。
最後の言葉は彼女の耳に届いたのだろうか…
また、来た道を静かに戻る。




足音も立てず、静かに…明かりも灯さず。
彼女の心は、複雑か感情で埋め尽くされている。
だから、これほどの至近距離の接近を許す。


「…?」

「…………」


気付いたのは気配を感じたからではなく、ただ目の前が明るく照らされたから。
レミリアが足を止めたのは、咲夜を感じたからではなくただ、明かりを見たから。
頭の中から咲夜が抜け出るほどに、今の彼女の思考はいっぱいだった。


「お嬢様…妹様の所に行って居られたのですか……」


咲夜はほっと胸をなで下ろす。
咲夜にはおおよその予想は付いていた。
何故、1人で赴くのかも。

だから咲夜は席を外し、その時間はレミリアを探さない。
とはいえ、やはり愛しい主がいないのは不安だ。
ましてや、肉親とはいえ彼女の心が咲夜以外で埋まるのは……とても。


「喉が渇いたわ」

「では、お部屋に紅茶をお持ち致します」



□◆□◆□◆□◆



「美味しいわ」

「ありがとうございます」


レミリアは紅茶を飲んで一息つく。
気が付けば咲夜は二杯目をカップに注いでいるのだから今になって喉が凄く渇いていたと知った。
それほどまでに、あの空間は自分にとって居づらいのだ。


「お嬢様」


波紋が止まない紅茶から視線を移す。
いつもならただ静かに傍にいるだけの咲夜が珍しく口を開いた。


「なに…咲夜」


大方の予想は付く。
フランドールの事だろう、と…レミリアは興味の無さそうに返した。


「わ、」


………
……


「わ…私では、妹様の代わりにはならないでしょうか?」


………?
予想のしていたものと違ったのか、レミリアはきょとんとした。


「えぇと…ごめん咲夜。言っている意味がわからないわ」

「ですからっ!」


咲夜としても、張りつめていたものがあったのだろう。
一度出してしまえばもう止まらない。
先程までの静かな空気から一点、メイド長の演説会になってしまった。


「お嬢様が妹様の所に毎晩逢い引きに行かれてる事は存じております」

「あ、逢い引きッ!?」

「では…ま、まさか夜ば…」

「そんなわけないでしょっ!!!!」


吹きそうになる紅茶を何とか処理し、咲夜に急いで反論する。
こういう時の咲夜は想っている事が全て口に出る。
つまり、思考した端から外に出るわけで…
どういうわけかというと、


落ち着かないのである。


「わ、私はお嬢様に使える身、出過ぎた真似は重々承知していますが…」

「だから少し落ち着きなさい咲夜。私はそんな目的で
 フランの所に行ってるなんて一言も………」

「で、では…どうして毎晩妹様の所へ!? ふ…不自然です!!」

「や、だからそれは……」

「ほら、口では言えない事なんですね!?」

「だから違うって…その、寂しいというか…気の迷いというか…」


(寂しい…気の迷い……)


「あぁ…なんか誤解に拍車がかかってるようだけど咲夜の
 考えているような事じゃないわよ?」

「身体の寂しさを一時の気の迷いで…妹様に………」

「コラ、咲夜! いい加減にその卑猥な妄想を止めなさい!!」


最早コントである。
咲夜ってこんな性格だっただろうか…
多少抜けているところは確かにあったがもう少し冷静で真面目な性格だと思っていたんだけど…

そも、私もこんな大騒ぎするキャラじゃないはずだ。
もっと知的でクールでカリスマに溢れてて……

それが何この仕打ち。
身体が疼くからと実の妹に迫って現場をメイドに見られて説得中?
さっきまで暗い話じゃなかったかコレ?


「身体が寂しいのでしたらどうして私を呼んでくださらないのですか!?
 私だったらいつでも…どんなことだって!」


咲夜が頬を赤らめる。
違う。違うわよ、咲夜…
その表情は可愛らしいけど今やるのは間違いよ。


「どんなことって…一体何するつもりなのよ…」

「お嬢様が望むならfrtdktp…」

「ストップストップ!!! 何を言い出すのあんたはぁ〜!?
 大体そんな事何処で覚えたの!」

「天狗の新聞ですわ」


おのれカラス…
よくもうちのメイドにつまらない知識を叩き込んでくれたわね…


「で、ですから…」


咲夜の口調が落ち着く。
いっぱい叫んで少しは落ち着いたのだろうか。


「今度からは…私にお申し付け下さい…」


ポッ
そんな擬音が聞こえてきそうな表情。

可愛いわ、咲夜……
……じゃなくて。


「だから、そっちの方向に話を進めるのは止めなさい!!」


紅魔館の夜は長い。
その長ーい夜を特に長く感じてしまう事になるレミリアだった。

そしてふと考える。
何故私はこの子を拾ったのだろうと。
だけどベッドに入って考えるのだ。
さっきの自分は自分から見ても笑えてしまうほどバカ丸出しだった。
そして、そんなやり取りが出来るくらいに心が暇になったということは、
やっぱり彼女を家族にしたのは間違いではなかったんだ、と。



◆◆おわり◆◆





咲夜の基本レミリア絡みになると暴走するのはデフォ。
それがうちのジャスティス。

−葉桜。



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