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何でもない、ただの休日。
怠惰に昼間で惰眠を貪り、ご飯は適当に済ませてテレビを見ながらごろごろ。
一応会社では猫被ってるもんだから、こんな生活は見せられたもんじゃないね、夢を壊してしまうよ。何て言うと誰の夢を壊すってんだって怒られてしまうんだけれどね。

元後輩、現在の部下。そして俺の恋人は今日はお休みのはずなのに、連絡さえしてこない。きっと疲れてるんだろうなぁ。将来有望株だから、やたらと仕事を任されちゃってるのだ。しかも断らない。あの子も馬鹿だなぁ。
そうだ、俺が直々にお昼でも作って行こうか。ランチに連れて行ってもいいけど、あの子もそれなりに猫被りな子だからね。肩の力、抜いてあげないと。ああもう何て恋人思いなんだろうね、俺は。

と、そこまで考えて外を見てみる。もうすぐ六時。部屋が暗くなるわけだな。カーテンを引いて、部屋の明かりを点ける。今日は会えないかなぁ、と溜め息を深く深く。

俺からメールしてもいいけど、普段は用事がある時しか送らないし今は声が聞きたい。何となくだけど。
でも電話だってかける理由もないし、声が聞きたかっただけなんてそんな可愛らしい理由は口が裂けても言えない。


「ううーん……」


今日は諦めて、明日早く起きたらデートにでも誘ってみようか。見に行きたい映画あったし、それを口実にして。本当なら今日の夜からずーっとごろごろ過ごしたいなぁとも思うけど、彼のお休みを潰しちゃうのもね。
途端、電話が鳴った。

初期設定のままの着信音。ぱっと携帯を見るとぴかぴかと綺麗な水色が光っている。あの色の設定は一人だけ。


「も、もしもしっ!」
『っ……な、急に叫ばないで下さいよ』


耳元で響くのは聞きたかった彼の声。口元が緩むのも抑えずに、俺はソファにダイブした。


「ごめんごめん、で、どうしたの?」
『いえ、ちょうど買い物帰りで暇だったので適当に電話してみただけです』
「……君、俺の扱い酷くない?」
『気のせいです』


俺は鬼男くんに電話するために沢山理由を探して、悩んで、そして諦めたのに。そんなにくだらない理由でかけてしまえる彼がとても羨ましい。
でもどうしても悩んでしまうんだ。俺ばっかりが鬼男くんを好きみたいで恥ずかしいって気持ちもその中に含まれている。
電話をしてくれるのは嬉しいけれど、彼は何を思って俺に電話をくれるんだろう。本当にただの暇潰しならちょっと俺泣きそう。
君も、俺の声が聞きたいって、思ってくれないのかな?

気付いたらメールの受信ボックスは鬼男くんの名前で埋め尽くされていて、気付いたら着信履歴も鬼男くんの名前で一杯で。なのにリダイヤルも送信ボックスも鬼男くんの名前は少なくて。
君は、ちょっとでも心配してくれないのかな?嫉妬とか、してくれないのかな?


「肯定されてるみたいー」
『気のせいですってば』


ちょっと哀しい気持ちも入るけれど、鬼男くんの優しい声は耳によく馴染んで感情は塗り替えられていく。これを人は恋は盲目、とか絆される、とか言うんだろうね。惚れた弱み?ちょっと違うかな?


「で、何の買い物?」
『あー今日は鍋でもしようかと思いまして』
「一人鍋?うわぁさーみしーい」
『うっせえ』


どうせなら俺と一緒に鍋しようよ、夜ご飯まだ食べてないんだよ、ねえ作りに来てよ。こんな簡単なこと、どうして口に出来ないんだろうね。あーあ、意気地なしな自分、本当に嫌になる。


「ちなみに何鍋?」
『キムチ』
「あ、いいなぁ。俺それ好きー」


その後も軽くお鍋の話をして、そこからちょっとだけ仕事の話に戻って、俺は鬼男くんの声と、風の流れる音に車の音、踏み切りの音に電車の通過する音、鬼男くんの体験している音を耳に入れていく。
本当なら君の隣を歩いていたいのになぁ。


「……ね、今どこにいるの?」
『今ですか?』
「うん、今……」


ぴんぽん、とチャイムが鳴る。折角鬼男くんとお話をしてたのに、誰だろう。まったく、空気を呼んで欲しい。


「はいはぁーい」


よっこいせと重い腰を上げて、裸足でフローリングを踏む。スリッパ買おうかな、そろそろ。


『今ですね、』
「ん?」


覗き穴から外を見ようと思ったけど、面倒だったからそのまま鍵を捻って扉を押した。
ずい、と来訪者からビニール袋を押し付けられる。一体誰だ、非常識な。そう思いつつ袋の向こう側にいる人物を視界に入れて、……多分きっと、俺は間抜けな顔をしていただろう。断言できる。



『「あんたの家の前にいますよ」』



含み笑いの混じった声が目の前からと、電話口からと、重なって聞こえる。


「あれ……?」
「一緒に食べません?キムチ鍋」


ぷつん、と電話が切れた。でも、目の前に電話の相手がいる。今日一日、会いたくてたまらなかった恋人の姿がある。

ぐぐっと込み上げてきそうな涙をどうにか堪えて、彼の金髪を両手でがっしりと挟み込んだ。そのまま噛み付くようにキスをすると、鬼男くんのかけてる眼鏡がちょっとだけ邪魔で。ほんと、空気読みなよね。


「眼鏡、曇っちゃったね」
「あんたの体温、やけに高いんですもん」
「君のせいだよ」
「それは光栄です」


もう一度、今度は眼鏡を外してキスをして。じゃあ一緒にお鍋食べようか。クーラー入れて、暑くないようにしなきゃね。


「大王」
「ん?」

「会いたかったんで、会いに来ましたよ」




もっと早くその言葉はいいなさい、と注意すべきか。それとも俺も会いたかったよと素直に言うべきか。
迷った結果はどうせ一緒の結論になるのだから、まあいいや。










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