一応、七夕乐正绫&洛天依 (?)拍手有難うSSです。
ご覧になって下されば幸いです。

「天依、星を見に行かない? 美味しいお菓子も用意したからさ♪」

突然 綾からの夜のピクニックのお誘い。
だが 洛天依はとてもそんな気分にはなれなかった…


使命を背負いこの地上に降り立ち、

幸運にも言葉は通じずとも力を尽くしてくれる仲間も出来た。

しかし飛び抜けたものを持たぬ無名の歌手が注目されるほど 世の中甘くはない。

徵羽 摩柯が作ってくれた投稿動画の再生数は芳しくなく、先人のVOCALOID作品と比較したコメントがチラホラ。

路上ライヴをやるも素通り。 寄ってくるのは酔っ払いか怪しい連中ばかり。

仲間に迷惑をかけるばかりの報われない日々にうちひしがれていた。


「へへ~実はさ『初音ミク』の好物とやらを日本から取り寄せましたっ!
 お出かけしてくれるってならあげなくもない…ぅぉッと!食いついてきたね~;」

天依は身を乗りだし食い入るように綾を見つめた。
洛天依は先人VOCALOID達を崇めており、初音ミクにおいては彼女の世界では“神”のような存在。

直接教えを乞うのは失礼にあたる。
だが、彼女の生活習慣や趣味を知りたい模倣したいと思うのが愛好者として当然の心情だ。

洛天依は綾に半ば釣られた形で夜のピクニックに出掛ける事となった。



「その昔 天帝の娘『織姫』と凡人『牽牛』が内緒で結婚したんだって。
 結局バレて連れ戻されたんだけど尚も牽牛は障害を乗り越え織姫に逢いに行ったの。
 その根性に負けて一年に一度逢うのを許したんだって~」

喜々と心浮き立たせ夜道を歩く綾。
しかし洛天依は『初音ミクの好物』が気になって仕方ない。

「でもさ~馴れ初めが最低なのよ~
 天帝の7人の娘が地上へ降りて入浴しに来たの。
 そしたら牽牛が織姫の服を隠した挙句『返して欲しくば私の嫁になれ』って脅迫だよね~」

メモリーはされてるが直ぐ様話に加われない領域に収録してしまっている。
まさに『上の空』状態だ。

その様子をみて これ以上のおあずけは酷かなと綾は草原に腰を降ろした。

(そういえば…この辺りだったかな…天依と出逢ったの…)


「勿体振ってゴメンね。はい」
と手渡したのはパッケージが日本語表記のアイス。

(…本当にコレを初音ミク様が?)
半信半疑のまま口に運ぶ。
コクがあるのに甘過ぎず サッパリしていて潔く喉の奥に消える…

以前食べたアイスなら それで終わるはずが 今までと違う後味に驚愕する。

「びっくりしたでしょ~ ネギ入ってるのよ 不味くはないンだけど頭ン中パニック起こしちゃうわよね~」

そう文句を言いながらアイスを頬張る豪快な綾。その食べっぷりよりも豪快な話を披露する。

「私もさ信じられなくてさ~
 通訳使って『本当にコレが初音ミクの好物なのか?』と訊いたら
 『そんなに疑うならその娘に中国の“溶けないアイス”でも食べさせておけば?』って
 そっから 2時間チャットでケンカよ。 その娘の名前 私と同じ名前だったなぁ~」

(鏡音リン様とケンカ!?)
目を見開き金縛りにあったかのように硬直する天依の様に吹き出す綾。

「そしたら初音ミクとかMEIKOとか名乗る人達が仲裁してきてさ…いろいろどうしたらいいか訊いてきちゃった…」

尊敬してるVOCALOIDに先に会話して抜け駆けしたみたいでゴメンねと小さく謝る綾。

「二人曰くさ『家族がいたから』だって。ひとりだったら人気が出ても一過性のものだったろうって 。
支え合ったり 喜びを分かち合ったりして 夢に向かって頑張ってたら 周りの人達の夢になって
今じゃ世界中の人達の夢になったんだって」

(そうか…世界をも魅了する歌姫 初音ミク様を支えるものは『家族』…)

世界的に有名な彼女を支えるものが素朴なもので心綻びたのと同時に気持ちが沈んでいく…

(すべての能力で劣っているのに…私は欠けたものだらけ…)

遠い…手を伸ばしても届かない。
まるで仄暗い水の底から太陽の光揺らぐ水面を目指して溺れもがいているかのようだ…


「……だからさ、私の事を『家族』だと思ってよ…」

綾がポツリと呟いた言葉は月のように優しく心を照らした。

「迷惑だとか遠慮とかナシ。嬉しい事があったんなら一緒に笑ってあげる。悲しい事があったんなら笑えるまでギャグかましたげるから…」

彼女は目を伏せ、天依の手を そっと引き寄せた。
きゅっと握られた手が震えている…。


「…だからさ 帰ろうだんて思わないでよ…天依の夢は…私の夢なんだから…」


(あぁ…見られてたんだ…)
地上に降りる際に使用した飛行物体が保管してある部屋で佇んでいたことを…

お供の天钿に少し弱音を吐いていたことを…

言葉は通じずともその緊迫した空気で伝わってしまったのだろう…。

「どうしても帰るってんなら私も牽牛みたくムチャクチャやるよ
宇宙船だか飛行機だかわかんないアレ隠しちゃうし、
…連れ戻されたって連れ返しちゃうから 神様に嫌われたって天依を譲りたくないからね…」

語彙だけみれば脅迫めいた言葉。
だがその言葉を発したのは身体を震わし指先は冷え涙目での必死の懇願する少女。

弱々しくも髪は星明かりに反射して光ってとても愛おしく思えた。

じんわりと彼女の想いが胸に伝わってくる。

あぁ 彼女の想いに応えたい。彼女の不安を拭い去りたい。
帰るつもりはない、諦めるつもりはない、ずっとずっと皆と一緒に奏でていきたい… と伝えたいのに地上での語彙を持たぬ天依には伝える事が出来ない。

いや、短い間だけど地上での言語を学んだんだ 思い出せ 思い出せ。


「對不起 謝謝你 以后也请多多关照」
  ――ゴメンね有難うこれからもよろしくね。――

この地ではありふれた言葉…
綾を不安を解消出来るかわからないけど…

「天…依…」

綾の頬にしずくがつたう。
彼女の身体から安堵が流れ込んでくる。

「と、当然だよっ 途中でリタイアとかナシだからねっ 私の夢なんだからっ!」

安堵の空気を放ちつつのこの言動…
確か墨 清弦がこの状態の事を指し示す言葉を教わったような…
天依は意味を理解してもいない言葉を口にする。

「傲嬌(ツンデレ)?」
「なっ!違うっ私はツンデレじゃないっ
ああもうこんな時間じゃん!
早く帰らないとあのお兄ちゃんの事だもの 心配して捜索願いでも出しかねないわよっ早く、早くっ」


天依の手をとり駆け出す綾。
また慌ただしく振り回される感じが心地よく。
それが蘇った喜びの感情と新たな目標が胸に宿る。

―あぁ もっと言葉を学びたい―
―言葉の意味を解して歌いたい―

―すべての気持を乗せて歌いたい―

―他の誰かでなく 貴女を喜ばせたい―

―今はその人の為に頑張ろう―
―かつて先人のVOCALOID達がしてきたように―。

―あのまま怒って帰ったけどもうひとつ伝えたかった言葉があったけど…―

いつか言える日がくるだろう…―


―ー謝謝你一直在那裡――



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
お名前 URL
メッセージ
あと1000文字。お名前、URLは未記入可。