千年の恋(紛い物にご注意)
首筋に生温い風を感じて気が付いた。自分が今何をしているのか。
カラオケオールをしよう、と言い出した圭介を(山口さんは音痴でいらっしゃるので)
勘弁してくれとお断りしたら、じゃ漫喫オール!というので漫画喫茶でDVDを見ている最中でした。
いつの間にか私は圭介の足の間に収まり、デコルテの辺りに圭介の腕が当然のように鎮座している。
うん、特に文句はありません。私こういうの好きなんで。案外ね。
そこでようやく認識した。生暖かい風の出所が圭介だと言うことに。
ごっつのDVDのどこで発情したんだろうかと考えている間にも、うなじをべろりと舐められて背中が粟立つ。
「う、わ」
「ん?」
「(ん?じゃないし)…ちゃんと見ようよ」
「見てるよ」
私のヘッドフォンは耳からズレて、今田さんの声が半分くらいしか聞こえないし
髪はぐじゃぐじゃになってしまったっていうのに、犯人はしっかりとヘッドフォンをはめていて楽しそうにパソコン画面に笑顔を向けている。随分器用ですこと、呆れた。
「いっ…!」
「…」
「け、すけ。痛い」
「うん」
溜息をついて意識をごっつに戻す。
突然首の付け根に筋肉が裂けるような痛みが走って、思わず悲鳴が出る。
けどすぐに漫喫だったことを思い出してぐっと堪えた。隣のボックスからはサラリーマンとおぼしき人のいびきが聞こえる。
薄い板一枚隔てただけの部屋で圭介は相変わらず私の皮膚に歯を立て続けている。
「ついた」
「…歯形は余計」
「吸血鬼みたいじゃん」
圭介が満足そうに笑うので何だかもうどうでもよくなってきてしまった。
「吸血鬼に血吸われるとそいつも吸血鬼になるんだっけ」
「逆じゃない?」
「吸血鬼の血を吸うと?」
「そう」
大人しかった腕は気づけばウエストに回されていて、ぎゅうぎゅうと圭介は力いっぱいわたしを引き寄せた。
息が出来なくなりそう。
耳に熱い息がかかって鼓膜がじんじんする。
「なら、俺の血を吸ってよ」
圭介はいつの間に吸血鬼になったのだろう。その声も二酸化炭素も熱もあまりに真剣味をおびていて、私は笑い飛ばせずにいた。
「1000年一緒にいて」
そして視界は倒れる。
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