「アンフェア」 夕食が終わると僕はいつものようにテレビを消し、部屋で日課の読み物を済ませ、 いつものようにベランダに出た。 都会化の進んでいくこの街では、星は姿を消しつつある。 暗いばかりの空を見上げて、白く息を吐いた。 今日やり遂げたこと、出来なかったことを一つずつ確認して静かに心にしまっていく。 いつだって後者の数が勝つけれど、それも力にできるように。 救世主として強くなるためのそれは日課。 さて、凍えないうちに部屋に入ろうとした時、夜空がひとひら切り取られて、 こちらに落下してくるのが見えた。 「悪魔くーーーーーん!!!!」 たちまち降りてきて自分を抱きしめた夜空は、会いたかった会いたかったとうれしそうに笑う。 「二週間前に来たばかりなのに」 「それでも会いたかったんだ!」 ぎゅっと抱かれれば、僕の方でも認めざるを得ない。僕も会いたかったよ。背中を抱き返した。 「さっきまでね、ニュース見て、学者からの定例報告読んでたんだ」 「うん」 「暗い報せばかりだった」 僕が救世主の使命を受けてから10年、一体どれだけのことをできたのだろう? 今日も世界のどこかに飢える子どもが、撃ち合う兵士が、いがみ合う人と悪魔がいる。 世界はちっともユートピアなんかに近づいてなんかいない。 「なのにさ、僕がこんなに幸せなのって不公平だよねえ…」 守るように抱いてくれる腕の心地よさに、胸が痛かった。 「バカだな。悪魔くんが幸せじゃなくて、誰を幸せにできるんだよ」 君が甘い言葉で騙してくれるから、星のない夜空のような腕に、今だけ甘えて目を閉じた。 |
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