*パラレル 恋ルキ 従者とご主人。 「お嬢。・・・やっぱりここにいましたか。」 「恋次、その呼び方はやめろと言うに。」 ふい。と拗ねたように顔を背け、ぶらぶらと足を揺らす様はまるきり子どもだ。 まして彼女の座る場所は、広大な朽木の屋敷のその中庭にある木の上。 それでも。生まれの貴さか、そんな仕草でも彼女の上品さが損なわれることはない。 「とにかく降りてきてくださいよ。だいたいどうやってそんな格好でそんなところに昇ったんすか。」 木登りなら幼い頃二人で何度もしたことがある。 流石に年頃になってからはしたことなどなかったけれど。 だから彼女が木登りが得意であるということなどは承知だ。 けれど。 今の彼女は豪奢な振袖を着ている。 そんな格好でどうやって登ったのか。 「・・・・・その中途半端な敬語もやめろと言うに。」 またむ、と口を尖らせた彼女に恋次は大きく溜息を吐いた。 天涯孤独の身の上だった恋次は幼い頃この元は貴族という旧家、朽木家に拾われた。 恋次より5つ年下の、この家の娘の従者として。 小さいころは遊び相手として、年が上がるにつれて彼女のボディーガードとして。 いつも一緒に過ごしていた。 そしていつも彼女を見ていた。 「・・・・・・中途半端で悪かったすね。柄じゃねえんですよ。」 「敬語などないほうがお前らしいのに。」 いつの頃からか、――そうそれはルキアが年頃になって気の早い縁談がちらほらと舞い込むようになってから。 恋次は敬語を使ってルキアと口を利くようになった。 それがルキアの機嫌を損ねても、変えようとはしなかった。 覚悟を、したから。 決意、したから。 「・・・・・・見合い相手は・・・?」 「お嬢の“具合が悪い”ってことで今日のところはお流れにしてもらいましたよ。」 「そうか。」 ほっと。ルキアが溜息を吐く。 今日も。ルキアの元に舞い込んだ見合いだったのだ。それを逃げ出してきた。 ・・・けれど。 ルキアが逃げているのは、『逃げられて』いるのは。 この見合いが“真打”ではないから。 本当に、“家”が、“一族”が求める縁談だったならば。 ルキアはこんな風に逃げることなど叶わなかっただろう。 ルキアは何も言わない。 だけどルキアが何を思っているのかなど、恋次には手に取るようにわかる。 ”縁談など、そんなもの。会ったこともない男と添うなどと。” →next |
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