拍手お礼:ある日の神託の盾騎士団(1/3) 注:ED後捏造第三部『第951回近況報告』裏話 その日、神託の盾騎士団の一部隊が公開野外訓練の名目でダアト外れの平野に集っていた。 とは言え訓練の内容は、日頃の騎士団本部での訓練と殆ど変わらない。 しかも近距離とは言え移動時間等も掛かる事を考えれば、わざわざ野外で訓練をする意味などあまり無さそうなものだが、しかし、最近は時折こうして野外での訓練が行われている。 ダアト地下にあるあの広大な訓練場ばかりでは息が詰まってしまう。かつて神託の盾騎士団が殺伐とした軍事組織であった時の鬱々とした空気が、あそこには未だに残っているかのようだから。 けれど、今の神託の盾騎士団は、違う。かつてのように、清廉な宗教団体の裏の顔を地下に隠す必要も無い。 こうして野外訓練をしている時などは、巡礼人や観光客が遠巻きに訓練を見学したりする程だ。 ちなみに今日はと言うと、先程からの小雨にも関わらず、騎士団員達の士気はいつもの訓練よりも高く。 そして距離を置いて設置された雨除けの天幕の下に、常よりも多いギャラリーの姿がある。 その理由は・・・今日の訓練には、最近キムラスカの王女殿下との婚約発表をすると共にその出自を公にした、若き主席総長の姿がある為である。 特別な色とされるその深紅の髪を惜し気もなく晒し、よく通る声で号令を出し、時には騎士達と直接剣を交わして指導をする主席総長の姿に、ギャラリーからの反応はと言うと・・・ 「え、なに、主席総長?ふーん、若いのにすごいねえ」とか 「あの人誰?ちょっと素敵じゃない!?」とか 「アレが自分のレプリカに地位を譲ったとかいう人か・・・変わってんなぁ」とか 「もうちょっと背が高ければもっといいんだけどな〜」とか 「団長カッコイイっす!」とか。 一般への認知度はまだそれ程でもなく、とは言え反応はまあ概ね好意的と言えるだろう。 ・・・一部、非番の騎士団員の声援なども含まれるが。 「雨、そろそろ止みそうですね」 副官の言葉に、アッシュはそうだな、と頷いた。 最初からそう強くはなかった雨は、今ではもう霧雨程度である。空も明るいままだったのですぐに止むだろうと訓練を続行したのだが、読みは当たったようだ。 かつては天気の予測も預言に頼っていたのだが、預言の無くなった今では、空の色や風向きや他地域の天気等を参考にして予測しなければならなくなった。 天気の予測というものは無ければならない物ではないが、判れば何かと便利ではある。神託の盾でも、誰か正式に気象や自然科学等を学ばせようか・・・などと考えていたアッシュだったが、ふと今までと違う質のざわめきが気になってギャラリーの方へ視線を向けた。 「・・・何だ・・・?」 「あ・・・団長、あれですよ。ほら」 同じように何事かと周囲を気にしていた副官が、ふ、と笑みを浮かべてアッシュの後方を指す。 アッシュは、促されるままに振り向いた。 ・・・虹が、出ていた。 以前にも見た事があったか・・・いや初めてだったか。生憎覚えていない。以前はそんなものに目を留めている余裕など無かったから。今ならば、素直に綺麗だと思う。 けれどそれよりも脳裏に真っ先に浮かんだのは、虹に対する感想ではなく、本物の虹を見てみたいと言っていた自身の片割れの事。 「虹なんて久し振りに見ましたよ。いつ以来だったかな・・・」 「・・・・・・」 アッシュは、そわそわと落ち着かない風に周囲を見回した。 いち早く虹に気付いた見物客達はもとより、訓練中の騎士達の中にも虹を見上げて「おお」とか言っている者がいる。けしからん。 いや、今のアッシュ自身も訓練など放り出したい気分なので、人の事は言えないのだが。 「・・・団長?どうかしました?」 「いや・・・・・・予定より早いが、少し、その・・・休憩にしないか」 「休憩、ですか?まあ団長が仰るならもちろん良いと思いますが」 「さっきの雨で見物客用に天幕を出したりして、予定より体力を使った者も居るからな・・・あとは・・・その、気が散っている者も多いし、な・・・」 「ああ、虹ですね・・・あ」 副官は、にやりと笑った。アッシュは嫌な予感がした。 この副官は特務師団の頃からの部下で、アッシュの・・・何というか、諸々の事情も殆ど知っている。隠し事が出来る気がしない。 「ルークさんに虹を見せて差し上げたいんですね?」 「・・・・・・」 ・・・案の定、読まれていた。今更否定しても、かえってからかわれるだけだろう。 照れて見せるのは嫌だし、かと言ってここで「勘違いするな!」と怒り出す程には子供じゃない、つもりである。我慢がまん。 アッシュが照れも怒りもツンデレっぷりも押し殺してとりあえず睨み付けてくるのを気にする風も無く、副官はにこにこと笑みを浮かべて言った。 「どうぞ行って来て下さい、皆には私からうまく言っておきますから。早くしないと虹が消えてしまうかも知れませんし」 そうだった。問答している暇は無い・・・虹などどれだけの間出ているか判らないのだから。 「・・・・・・判った。頼む」 アッシュはそう言うと、副官に背を向けた。 邪魔が入らず、虹の良く見えそうな場所・・・少し離れた高台あたりが良いだろうと見当をつけ、足早にその場を離れる。 そのアッシュの後ろから、副官が良く通る声で騎士達に指示を出す声が聞こえた。 「はーい、皆さーん!アッシュ総長が虹を見たいそうなので、しばらく休憩にしまーす!」 アッシュがおもわず足を滑らせたのは、雨でぬかるんだ地面のせいだけではない。多分。 (虹を見たいのは俺じゃなくルークで・・・いや、あいつに虹を見せてやりたいからなんて言えるかっ!そっちの方がかえって恥ずかしいだろうが!っつーかどこが「うまく言っておく」だ、どこが!!) アッシュはツッコミたいのをぐっと堪えて、微笑ましそうに見送る騎士達(+α)からの大量の視線を感じながら、それらから逃れるように更に足早にその場を離れたのだった。 ************ ・・・以下、この日の公開訓練が終了した後に見物客達から任意で提出されたアンケートの回答より抜粋。 「大変好感が持てました。また機会があれば観に来たいと思います」 「主席総長さんがかわいかった」 「今までは神託の盾騎士団というとお堅いイメージがあったのですが、なんだか親近感が沸きました」 「アッシュさんのファンクラブって無いんですか?」 「団長が レプリカとオリジナルの共存を、多くの人々に身近に感じて貰いたい。その為にルークもアッシュも、本当は苦手なのだが積極的に人前に出るようにしている。知名度というより、親しみを持って貰いたいから。 その点では、今日の野外訓練は大成功だったと言えるだろう。アッシュ本人は大変不本意ではあったが。 ちなみにちゃっかりアンケートまで提出していた非番の騎士団員は、後でアッシュ本人に、何をやっているんだとねちねちと怒られたとか。 そして怒られているくせに嬉しそうだったとか。 拍手ありがとうございました! |
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